2013 Fiscal Year Annual Research Report
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22540299
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 准教授 (10469877)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 相対論 / 超弦理論 / 重力 / 素粒子物理 / 物性物理 |
Research Abstract |
本年度は、超弦理論に基づく高次元ブラックホールを用いた双対性を具現化する漸近的反ドジッター(AdS)ブラックホールとその無限遠の境界上の場の理論の性質について摂動論的に調べた。 漸近AdSブラックホールに双対な境界理論としては様々なものが知られているが、最近特に興味深い対応が明らかになりつつある系として、AdSブラックホールと物性系、特に超伝導現象のホログラフィックな記述がある。この様な対応はAdSブラックホールに電磁場と複素スカラー場を加えるという比較的単純なモデルで具現化できることが分かっている。しかし境界上の強結合物性系でより現実的なモデルを考えるためには、格子構造を入れる必要がある。更に境界上のモデルで永久電流について考察するには、重力側のブラックホール解にも永久電流に対応した運動量を持たせる必要がある。一方、ブラックホールは古典的重力理論で扱われるため、格子の方向に運動量を持つと、重力波放射のため運動量は散逸されてしまい、その結果この双対対応に単純には合致しないと予想される。 この様な動機の下、本年度はシンプルなモデルとして電磁場のみを含む静的な漸近的AdSブラックホールにローレンツ・ブーストにより運動量を与え、摂動論の方法を用いて格子構造を導入した。ローレンツ・ブーストをする前段階の静的なブラックホールに対しては、マスター変数を用いたゲージ不変摂動論を適用できる。この様にして初期に与えたブラックホールの運動量が格子構造により散逸するかどうかを調べた。その結果、ゼロ温度ブラックホールの極限でもエントロピー生成が起こることが分かった。この現象は、対応する境界上の物性系においてゼロ温度でもイオン格子が完全格子として振る舞わないことを意味し、本研究での線形応答を超える解析によって初めて明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度に引き続いて高次元重力理論とゲージ理論対応に動機づけられた、漸近的AdS時空におけるブラックホールの研究を行った。今回はブラックホールを含む重力系だけでなく、対応する境界上の場の理論(物性系)側での解釈も含めて研究を進展させることができた。発表論文は1本で、昨年と比べて少なくなったが、本年度は昨年度までの研究成果を様々な研究会で発表する機会を持つことができた。それにより、これまでの研究結果を整理し、様々な研究会参加者から今後の方向性と計画について多くの有益な助言を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、本研究課題の最終年度として、主に二つの課題研究を行う。先ず、これまでの漸近的AdSブラックホールと境界の物性理論対応をより現実的なモデルで行う。特に境界理論として格子構造を考慮した超伝導を考え、それに対応する高次元ブラックホールとして、対称性の破れた方向へ散逸をしない運動量をもつブラックホール解の構築をめざす。一般に、そのような対称性の破れた系を扱うには複雑な偏微分方程式系を解く必要があり、高度な数値計算技術に頼らなければ、解析がとても困難となる。そこでブラックホールのホライズン多様体として特殊な3次元一様非等方空間を採用することで、解くべきアインシュタイン方程式を解析可能な常微分方程式系に帰着させる。これによりブラックホールがホライズンの並進対称性を持たない方向へ運動量を持ち得るためにはどの様な条件が必要かを明らかにする。 もう一つの課題は、一般の高次元ブラックホールの安定性について新しい手法を開発することである。これまでの摂動に対する発展方程式を用いた方法では解析が困難なより一般の回転ブラックホールに対しても安定性解析を可能にするために、初期条件に対する正準エネルギーの評価による安定性判定を行う方法論を検討し、特にブラックホールの解空間の境界にあたる臨界回転ブラックホールにも適用出来る初期値エネルギー評価方法を開発する。それにより高次元ブラックホールの動的安定性と熱力学安定性の関係も明らかにする。
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Research Products
(5 results)