2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22540379
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
田嶋 尚也 東邦大学, 理学部, 准教授 (40316930)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西尾 豊 東邦大学, 理学部, 教授 (20172629)
|
Keywords | 有機導体 / 多層ディラック電子系 / υ=0量子ホール状態 / 多バンドディラック電子 |
Research Abstract |
申請者は、質量ゼロのディラック電子を有するゼロギャップ電気伝導体をバルク(多層)結晶では世界で初めて有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3(と類塩物質)の高圧力下で発見した。ディラックコーンが大きく傾いているのも特徴の1つである。新しいタイプのディラック電子系が期待できる。 本年度の成果は以下である。 (1)[西尾豊(研究分担者)]:昨年度、申請者らは低温・高磁場下でn=0ランダウ準位のスピン分裂が十分強くなる状態でv=0量子ホール状態を示唆する結果を得た。本年度は、層間磁気抵抗、面内磁気抵抗とホール効果を60mKまでの低温、14Tまでの高磁場下でその状態を調べることを計画した。その結果、この系の低温・高磁場におけるn=0ランダウ準位におけるスピン分裂は、ゼーマンエネルギーよりも主に交換エネルギーであることを明らかにし、さらに、交換エネルギーがランダウ準位の幅を広げる効果を見出した。 (2)[田嶋尚也(研究代表者)]:次に、測定対象物質をθ-(BEDT-TTF)_2I_3へ広げることを計画した。申請者らは、この物質が大きなフェルミ面をもつ二次元金属から0.5GPa以上の圧力でディラック電子系に相転移することを既に発見していた。このような相転移はこれが世界で唯一である。本年度は、この物質のディラック電子系が、グラフェンやα-(BEDT-TTF)_2I_3とは異なる新しいタイプのディラック電子系であることを明らかにした。α-(BEDT-TTF)_2I_3と同じくディラック電子系に特徴的な面内の電気抵抗、磁気抵抗、ホール効果および面間磁気抵抗を示すが、一方、低温で磁気抵抗の量子振動を観測し、その解析(振動の位相等)から高圧下にあるこの物質はディラックコーンと独立に通常フェルミ面をもつことが明らかである。多バンド系におけるディラック電子を実現できたのである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、(1)有機導体で実現するディラック電子の新たな性質を見出す、(2)ディラック電子系の出現機構解明である。(2)についてはデータを蓄積し、相互評価する必要がある。一方、(1)については、9.研究実績の概要で記述しているように、新たなディラック電子の性質を見出すことができたといえる。さらに、ディラックコーンと独立に通常フェルミ面をもつ多バンド系におけるディラック電子系を発見できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度は、純粋なディラック電子系である有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3に加えて、多バンド系におけるディラック電子系であるθ-(BEDT-TTF)_2I_3の層間磁気抵、面内磁気抵抗とホール効果測定を50mKまでの低温、14Tまでの高磁場下で行い、多バンド系におけるディラック電子の特徴を見出し、ディラック電子の物理を構築することを目指す。さらに、厚さ100nm程度のα-(BEDT-TTF)_2I_3の薄板結晶を用いて、2種類の方法で試料へキャリア注入を行い、量子ホール効果を観測することを計画する。上記の計画を、田嶋(研究代表者)は磁気抵抗・ホール効果測定から、一方西尾(研究分担者)はゼーベック効果測定から実施し、以上の得られた結果を相互比較し、分子性導体におけるディラック電子系の基礎学理構築を目指す。
|
Research Products
(23 results)