Research Abstract |
本年度は,ナラティヴアプローチによるパス依存型経営継承の実証モデルを構築し,それを事例に適用することで妥当性を探ることが研究の目的である.理論枠組みは,主として野家啓一の物語り論を拡張した風景物語り(出来事を文脈の中に配置し時間的列に並べて共有できる物語りとしての風景を語る)を共同言語行為(皆で語る)として捉え,それを語り継ぐことによって皆のものになり,規範化することで個人の物語りを語り合い共通(組織)の物語りになるといった考え方を織り込んだ実証モデルを構築し,それを事例1:フィールド作業体験に起因する風景物語りの差異と,事例2:農村における祭りの持続に適用して妥当性を検証した. 事例1の想定として,(1)フィールド作業体験が異なると風景物語りも異なる,さらに(2)家族や地区の風景物語りは,共同行為として語られ,皆の物語り=歴史になる,この(1)と(2)より,(3)異なった風景物語り=歴史が語り継がれ,それを語る者同士は,アイデンティティを共有する.その物語りは,反復しつつ語り継ぐことを通して,皆の規範となり,その行動を規定するに至る(規範風景物語りの作成).その結果,「フィールド作業体験が異なる家族や地区では異なる規範風景物語りがあり,構成員の行動を規定する」といった仮説が導かれる.他方,事例2の場合,(1)パトス的(受動的・受苦的)行為の積み重ねが日常生活と異なり,祭りの時に多くの体験を共有する.(2)非日常的な体験を子供のときから体験し,また,親の物語りを聴き,語り継ぐことで祭りにおける食や芸能が継承(歴史として記憶)され,そして,(1)と(2)より,これらが伝統となるといった仮説が導かれた. 以上から,実証のポイントは「体験の共有→物語りの共有」であり,本モデルを適用することで次の点,(1)個人や組織の歴史,(2)それらのアイデンティティ,(3)それらの倫理,(4)組織間の差異の説明が(課題設定に応じて)明確になった.
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