Research Abstract |
反芻動物の肝臓での脂質代謝に対するアルコールの作用を明らかにすることを目的として研究を行った。第一胃カニューレと腸管膜動静脈,肝門脈,肝静脈カテーテルを装着した成ヒツジ4頭を供し,維持要求量の1.2倍相当量の飼料を2時間間隔で給与した。0,25,50,75gのエタノールを第一胃内に1回投与直後からそれぞれ0(C区),2.5(E1区),5.0(E2区),7.5(E3区)g/hの速度で5時間定速注入した。パラアミノ馬尿酸を腸管膜静脈に定速注入しながら,エタノール注入開始2時間後から30分間隔で5回,各血液を採取し,代謝物の動静脈濃度差と血流量を測定し,さらに代謝物の消化管からの正味吸収量と肝臓での正味代謝量を求めた。得られた成果は以下の通りである。 (1)動脈血漿中のエタノール濃度は,エタノール注入量が高くなると直線的に増加した。また,エタノール注入によって,動脈血漿中のグルコース濃度は低下し,乳酸濃度はE1区をピークに二次曲線的に低下したが,ケトン体への影響は認められなかった。 (2)エタノール注入量の増加に伴って,門脈と動脈の濃度差は,グルコースとケトン体が直線的に低下,乳酸とトリグリセリドはE2をピークに低下した。また,遊離脂肪酸とトリグリセリドの肝静脈と門脈濃度差はE2をピークに低下した。 (3)エタノール注入の増加に伴って,肝静脈と動脈の濃度差がグルコースとケトン体で直線的に低下した。 (4)エタノール注入量の増加と共に,消化管からのエタノール吸収量は直線的に増加,グルコースとケトン体の吸収量は低下,乳酸はE2区をピークに低下した。しかし,肝臓での糖新生は影響をうけなかった。また,肝臓での遊離脂肪酸の取込み量はE3区で,トリグリセリドの取込み量はE2区で最も高かくなる傾向にあった。 以上のことから,反芻動物でもアルコール摂取が肝臓での脂質蓄積を促進する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたように,第一胃内へのアルコール注入に伴う代謝・吸収反応(実験1)に関する知見が得られた。また,肝臓での代謝反応については,当初,肝門脈へのアルコールの直接注入によって調べる(実験2)予定であったが,実験1と同時に肝臓での代謝反応も測定できたことから,おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の実験では,エタノールを1回投与によって反応性を調べた結果,ほぼ仮説に沿った結果を得た。しかし,そのメカニズムについては栄養素の流量動態だけでは不明瞭であり,最終年度の研究では,肝臓におけるインスリンやグルカゴンなどの代謝調節ホルモンの流量動態からの検討が必要である。さらに,少なくとも1週間以上にわたるアルコールの投与実験による肝臓での栄養素の動態反応も調べ,今年度得られた結果と照合する必要がある。
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