2011 Fiscal Year Annual Research Report
肺炎桿菌の多剤耐性化に関わる遺伝子の同定とそれらの耐性化メカニズムの解析
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22590064
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
小川 和加野 岡山大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 助教 (90397878)
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Keywords | 多剤排出ポンプ / 肺炎桿菌 / RND / 多剤耐性菌 |
Research Abstract |
肺炎桿菌はヒト腸管や環境中に存在する細菌であり、日和見感染の原因菌の一つである。この菌による感染症治療には第3世代セフェム系抗菌薬やニューキノロンが多く用いられるが、現在、これらの抗菌薬に対して耐性を獲得した多剤耐性肺炎桿菌が、世界中で報告されている。 私は肺炎桿菌の多剤耐性に係る遺伝子を明らかにすることを目的として、以前に、抗菌薬に対する感受性が高い肺炎桿菌ATCC10031株から、抗菌薬多剤耐性変異株を分離した。そして昨年度までにはこれらの肺炎桿菌の多剤耐性変異株の中で高度多剤耐性を示した13株のうち、12株について発現が上昇した遺伝子を明らかにした。12株のうち1株はkexF遺伝子の発現上昇株(Nov2-2)であり、1株ではkexA遺伝子の発現上昇が認められた(Oxa128)。また2株ではkexGの発現上昇が認められ、残りの8株ではkexDの発現上昇が認められた。 本年度はこれらの株のゲノム上に、どのような変異が生じたかという点を明らかにすることを目指した。その結果、多剤耐性変異株Nov2-2ではkexEの一部を含む約1.5kbpの領域が欠損していることが明らかとなった。今後、この1.5kbpの欠損によりkexFの発現上昇が生じた仕組みを明らかにしたいと考えている。kexA遺伝子の発現上昇が認められたOxa128においては、この遺伝子の上流域に複数の塩基が同時に置換している領域が存在している可能性があることが分かった。この領域は短いながらもパリンドロームを形成している。今後、この変異がどのような仕組みでkexA遺伝子の発現を上昇させているかを明らかにすることを目指す。kex6あるいはkexDの発現上昇株については、これらの遺伝子の周辺領域に変異は認められなかった。現在、これらの遺伝子の変異部位の同定については、ストラテジーを変更して解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題において、私は次の3つの項目について調べること計画した。(1)発現上昇が認められた遺伝子が真に耐性上昇の原因遺伝子であるかどうか確認する。(2)これらの遺伝子発現上昇に関係する遺伝子発現制御系を探索する。(3)抗菌薬耐性上昇の原因遺伝子が未同定の多剤耐性変異株9株について、原因遺伝子を探索する。 学部の改築等の理由から一部の機器類の使用が制限されたため、課題を進める順序を変更し、(3)→(2)→(1)の順で行うこととした。現時点までに項目(3)はほぼ達成できた。項目(2)については現在、別のストラテジーによる探索を行っている(次項目「今後の研究の推進方策」を参照。)。(1)については現在遺伝子破壊に着手したところである。 3年間での研究計画において3項目のうち1.5項目ぐらいは完了したと判断した。そのため、やや遅れ気味という評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1)当初の予定通り、発現上昇が認められた遺伝子の破壊を行う。 2)多剤耐性変異株Nov2-2において見出されたゲノム上の約1.5kbpの領域の欠損が下流遺伝子の発現に与える影響について調べる。具体的にはこの欠損領域を含む領域をプラスミドにクローニングし、その下流にレポーター遺伝子としてGFP遺伝子を組み込む。その上で、上流域をdeletionし、GFPを介した発現の変化を調べる。 3)kexGあるいはkexDの発現上昇株については、これらの遺伝子の周辺領域に変異は認められなかった。そのためこれら遺伝子の発現上昇の原因を調べるにあたり、計画調書の「研究が当初計画どおり通りに進まない時の対応」を行うべきであると考えた。しかし、計画書を書いたときと比較し、次世代シーケンサーの利用がより安価で身近なものとなってきている。そこで、現在、次世代シーケンサーを利用したゲノム変異解析の適用を考えている。
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