Research Abstract |
複数の因子が関わる細胞の形態維持機構を明らかにするために,培養血管内皮細胞の形態変化をモデルとして用い,医工連携による「分子細胞力学的解析法」の創出を目指した. 昨年度の研究により新規に見出した,ニトロソ化合物の作用により急激に生じる細胞形態の変化を題材とした.この変化は,ニトロソ化ストレスを受けた血管内皮細胞が,細胞間隙を拡大させるとともに,細胞核形態にも変形を生じるが,ストレス除去により正常形態へ戻る可逆的な変化であった.この変化は,ニトロソ化ストレスを負荷後,約1時間以内に生じ,ニトロソ化合物の濃度依存性に進行した.この細胞変形の機序を生化学的に解析したところ,細胞膜表面に存在する接着分子の一つが特異的に切断されることが明らかとなった。細胞間隙の修復時には,この接着分子も再生されており,細胞間接着力の変化が細胞間隙の拡大に寄与していることが明らかとなった.また,細胞内においてもストレスファイバタンパク質の分解も関与していることが明らかとなり,ニトロソ化ストレスが細胞膜表面ならびに細胞内骨格の双方に作用し,急激な形態変化を生じさせていることが示唆された.そこで,これらの変化に工学的解析手法を用い,分子細胞力学的解析が行なえるか検討した.細胞形態をタイムラプス画像として記録し,細胞面積・接着分子の細胞膜上での濃度分布,さらに細胞および基盤との間に生じる接着力の測定も計画した.検討の結果,細胞間接着の評価系として,膜局所における接着分子に関する変動係数を定義し,ニトロソ化ストレス負荷による細胞変形の評価指数として用いることに成功した. これらの研究成果は,細胞形態の変化に着目し,生化学的な解析により得られた分子(接着タンパク質)の細胞形態に対する機能的関与を医工連携により解析する手法を具体化したと考えられる.
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