2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22720300
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小高 敬寛 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (70350379)
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Keywords | 考古学 / 先史学 |
Research Abstract |
本年度は西アジア初期農耕社会における物資管理システムの発展過程を考察し、昨年度検討したシリア、テル・エル=ケルク遺跡における事例をその過程上に位置づけることを目標として研究を進めた。その具体策として、1)テル・エル=ケルク遺跡出土資料を基にした編年の講築、2)西アジア初期農耕社会における貯蔵施設の比較分析、3)西アジア初期農耕社会における貯蔵施設と他遺物・遺構との関連性の分析、の3つを実施した。 1については、シリア情勢の変化により当初予定していた現地保管出土遺物の調査を断念したが、概存の遺物観察記録および筑披大学に保管されていた発掘記録を利用して、これらをデジタルデータ化しつつ出土資料の型式学的・層位学的検討を重ねた。結果として精細な編年観を得、またそれを軸に北レヴァントから北メソポタミアにかけての相対的な編年を案出するに至った。 2と3については、まず既存の文献等を精査し、西アジア先史遺跡の発掘事例のみならず民族誌上にみられる事例をも収集した。加えて、8~9月にはアゼルバイジャン共和国ゴブラルに所在する新石器時代遺跡ギョイテペの発掘調査、およびトルコ共和国カイセリ県南東部山間地域の遺跡踏査に参加し、テル・エル=ケルク遺跡の事例と比較対照可能なデータを収集するとともに、初期農耕社会に付随して現われるとされる移牧社会の貯蔵活動のありかたについても有益な知見を得た。 以上の研究により、テル・エル=ケルク選跡の事例が当該の時代において超世帯的で公共的ともいうべき性格をもつ点で特異なことは確かであるが、西アジア先史時代を通じての物資管理システムの発展過程という視座からみれば、異なった環境下にあるきまざまな生業を営む諸集団を介し、多種多様な物資の集約を,志向する定住農耕民の経済活動を示すという点では、むしろ本流として文明社会の礎となっていくような性格をもつことが理解できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度の到達目標はテル・エル=ケルク遺跡における物資管理システムを復元することにあり、平成23年度の到達目標は西アジア初期農耕社会における物資管理システムの生成過程を考察し、復元されたテル・エル=ケルク遺跡における物資管理システムを位置づけることであった。「研究実績の概要」に記したとおり、これらはおおむね達成できている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度においても、シリア国内での調査・研究活動は断念せざるをえない状況が想定される。本研究の最終年度にあたり成果の総括を主眼とするため影響は小さいと思われるが、テル・エル=ケルク遺跡の事例の考察を深め、作業の補完を行なう上での制限は否めない。そこで、シリア国外あるいは他の生業集団にみられる対照資料からの比較考察に力を入れ、物資管理システムの発展過程上にみられる多鎌性を確認しつつ、定住農耕民の物資貯蔵活動の性質と文明形成に向かう歴史的潮流との相互作用を評価していきたい。特に、テル・エル=ケルク遺跡と距離的に近いトルコ・カイセリ県において、移牧民を狙いとしたフィールドワークの継続を予定している。
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