2011 Fiscal Year Annual Research Report
真正粘菌変形体にみられる遷移ダイナミクスに対する数理モデルの作成とその数理解析
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22740064
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
上田 肇一 富山大学, 大学院・理工学研究部(理学), 准教授 (00378960)
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Keywords | 真正粘菌変形体 / 数理モデル / 遷移ダイナミクス / 反応拡散系 |
Research Abstract |
真正粘菌変形体は外部原形質の収縮弛緩運動によって発生する原形質流動の時空間パターンを定性的に変化させることによって環境適応的な行動選択を可能にしている。そのパターンの発生機構及び遷移過程を数学解析することによって、細胞が環境変化を情報化し、環境適応的な運動につなげる細胞内化学反応ネットワークの本質的機構を解明することが可能になる。真正粘菌変形体の環境変化の情報化に対しては、収縮弛緩の振動数が重要な役割を果たしていると考えられている。実際、振動数の変化によって空間的な伝播波を生成し、その波の上流に向かって細胞が移動することが報告されている。特に、Matsumotoらの実験では他の物理的条件に依らず振動数が本質的であることが示されている。一方、振動数の変化が行動の変化に結びつく仕組みは解明されていない。本年度はMatsumotoらによって得られた実験結果を再現する現象論的モデル方程式の作成を試みた。従来我々が提案してきたモデルを拡張し、収縮弛緩運動と原形質流動の相互作用を考慮した。数値実験の結果、収縮弛緩運動-原形質流動-ゾルーゲル変換の3つの効果が適切に相互作用することによって共鳴現象が発生し、空間非対称な運動が生成され、伝播波の上流に向かって細胞が移動することを示した。さらに、収縮弛緩運動の方程式に対してパラメータサーチを行った結果、FitzHugh-Nagumo方程式のような閾値を持つ非線形性において共鳴現象が発生しやすいことを発見した。 また、数理モデルの大域的分岐図を作成するために、反応拡散系に適用可能な分岐追跡ソフトウェアの開発を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Matsumotoらが行った実験を再現する数理モデルの作成に成功した。当初の計画通り粘菌の収縮弛緩運動の位相勾配に応じて移動方向が決定する仕組みを解明することができた。また、収縮弛緩運動を記述するモデル方程式の違いによって現象の再現性が変化することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画を作成した時点では、真正粘菌変形体の収縮弛緩運動をHopf分岐点近傍の周期解として扱い、縮約方程式を導出する計画を立てていた。しかし、数理モデルの数値実験の過程で、収縮弛緩運動をHopf分岐点近傍の周期解として扱うよりはrelaxation oscillationとして扱ったほうが実際の振る舞いを説明できることがわかってきた。今後は、縮約理論に関する研究計画を変更し、relaxation oscillationに対応可能な縮約理論の発展を行い、モデル方程式の解析を行う。
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Research Products
(5 results)