2012 Fiscal Year Annual Research Report
統計力学と量子論に動機を持つ数理物理学の確率解析的研究
Project/Area Number |
22740086
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
乙部 厳己 信州大学, 理学部, 准教授 (30334882)
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Project Period (FY) |
2010-10-20 – 2014-03-31
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Keywords | 確率偏微分方程式 / 確率解析 |
Research Abstract |
本年度の一つの目標は線型輸送方程式に雑音項が加わった場合にその係数推定の逆問題を考える基礎となる、雑音効果の除去法であった。もし系が常微分方程式で与えられているならば、加法的雑音が加わった場合の解の分布は単なるブラウン運動に絶対連続であり、一つの見本路からそれらを区別することは一見困難に見える。係数推定の逆問題では偏微分方程式においてこの問題を実行することが本質的な問題となるが、観測されたデータを適切にスケール変換して極限操作をとることによって解の分布を特異なものとして推定することが可能になることが見いだされた。この手法を輸送方程式に適用し、その成果は研究集会においてすでに口頭発表を行っている。 もう一つの目標は安定雑音を伴う放物型確率偏微分方程式の解の正則性問題であった。ガウス型雑音と異なり、一般の安定雑音のもとでは、ラプラス作用素による正則性効果が時間方向と空間方向とで全く異なる現れ方をするという予測のもとでその詳細な定式化に取り組んだ。2月には共同研究者であるZdzislaw Brzezniak氏とも徹底的な議論を行い、この現象に対する理解が深められた。これは確率論としては独立同分布な確率変数の和の収束に関わる問題であり、古くから伊藤-西尾型の理論として知られる由緒正しい問題であるが、安定雑音の場合には容易に一般論には落ちず、残念ながらまだ証明は完成していない。しかし確率の末尾分布の漸近挙動と積率の和の収束に関しては完全な結果が得られており、それは予測と完全に一致している。この両者から概収束を導くことが残された課題であるが、現在も電子メール等を利用して議論を継続しており、近々証明が完了するものと期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
確率的な輸送方程式の逆問題についてはおおむね予定通り研究が進捗した。順問題の解の存在、一意性についてはほぼ完全な解が得られたと言って過言ではないが、技術的には若干途中用いた半群の解析性についてやや一般化したい点が残されており、数学研究として完全に決着したとはいえない。 安定雑音のばあいの確率偏微分方程式の正則性の問題については、当初期待していた証明の完成とはいかず、未だ技術的問題点が若干残っている。しかしながら、それによって明らかとなった解析的あるいは確率論的な構造も多くあり、証明完成に向けて順調に進展しているという感覚が得られていると同時に、新たに得られた知見も多くあり、全体として研究の進捗は順調であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では到達目標に対して順調に進行していると感じている。逆問題については共同研究者のDan CrisanおよびSymon Peszatと連絡を取り、最終的な発表形態について討議を行う予定である。 また安定雑音の確率偏微分方程式の解の正則性問題については、Zdzislaw Brzezniak氏を介して無限次元空間における独立同分布な確率変数の和の収束に関する研究で著名なKwapien氏と連絡を取り、我々の遭遇している技術的難点についての討議を行うとともに最終的な証明完成に向かう予定である。
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