2022 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半の自然科学系ノーベル賞における日本関連の推薦・選考等の動向の研究
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22K00267
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡本 拓司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30262421)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ロックフェラー研究所 / 化学療法 / 血清療法 / 免疫 / 梅毒 / 黄熱病 |
Outline of Annual Research Achievements |
国内での資料調査・収集や、取得済の資料の検討に基づき、戦前期の日本関連のノーベル賞への推薦事例について、関連する個人やその所属機関に関する分析を実施した。 1920年代までにノーベル賞に日本の研究者が関わった事例の中には、北里柴三郎、秦佐八郎、野口英世が候補となったものがある。北里柴三郎を推薦したのはハンガリーの医学者であり、北里との直接の関係は認められないが、ペスト菌に関する北里の研究にも言及があり、欧州における北里の知名度が高かったことを窺わせる。秦佐八郎への推薦は、秦の研究を指導したパウル・エールリヒを主たる候補として推薦したものであるが、秦をエールリヒに紹介したのは北里である。また、秦を推薦した人々の中には、ベルンの外科学者、コッハーと、京都帝大の伊藤隼三がいたが、両者の間には、伊藤がベルンのコッハーの下で外科手術について学ぶといった関係があった。こうした関係が推薦に直接影響があったとは考えられないが、機関というよりも個人的な関係に基づく研究・研究者の認知の実態がうかがえる。 野口英世は、北里・秦に比べて推薦された回数ははるかに多く、また彼の業績については、1925年までに3度、ノーベル委員会の要請により報告が作成されており、委員会の注目度も高い。梅毒に関しては細菌学の研究者の中の一部の集団、黄熱病に関しては熱帯医学の専門家の中の一部の集団による野口への支持があったことが窺われ、野口も自身への推薦活動に協力して、業績に関する説明を推薦者に提供していた。私信でも受賞に向けた意欲を記しており、1920年代には、国際的な研究の動向の中で一定の位置を占めながら、自身の受賞を意識するに至る科学者が登場していたことが理解できる。 日本における物理学研究の隆盛に貢献した、アインシュタインの来日に関して、概要の検討を進め、その成果を展示で紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外における調査は実施できなかったが、国内での調査を実施し、また、入手済の資料を再検討した結果、日本の研究者の関わるノーベル賞への推薦の事例について、関連する個人やその所属機関、および世界的な研究の動向との関わりについて、新たな知見を得ることができた。入手済の資料に基づく分析に、ウェブ上で公開されている資料などによって補足をすることにより、推薦・被推薦の背後にある個人や諸機関の間の関係が明らかになる事例があることが確認された。 2022年は、アインシュタインの来日(1922年)の100周年であり、これにあわせて、物理学および科学、さらに西洋の学問・文化全体への、日本の人々の関心や理解の動向に影響を与えた、この出来事に関する基礎的な資料の調査を実施した。アインシュタイン招聘の中心にあった出版社、改造社が実施した諸企画、アインシュタインに対し反相対論を唱えて挑戦した東京帝国大学大学院生・第一高等学校教師の土井不曇の動向、アインシュタイン来日が巻き起こした事態を遠巻きに見ていた寺田寅彦の感想などについて明らかにし、その一部を展示によって紹介することができた。 以上の通り、研究課題に関して理解を深めることができたほか、資料の新たな利用法や、研究成果の公開の方法についても、新たな可能性を確認した。これらの点は、今後の研究の進展にも影響を与えることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
ノーベル賞に関する推薦・被推薦をめぐって確認される、個人・機関の関係の動向については、北里柴三郎・秦佐八郎・野口英世の事例についての発見が蓄積されつつあり、今後はこれは適切なかたちで公開していくことに努めたい。また、野口英世以降も、鈴木梅太郎、山極勝三郎、加藤元一、呉建、湯川秀樹など、注目される事例があり、収集済の資料に基づき、さらにウェブ上での資料公開などにより新たに入手可能になった情報を利用して、検討を進めていきたい。これらについても、適宜、成果を公表してする。 海外での調査も行いやすくなったことから、ストックホルム等での資料調査・収集について、現地の文書館等と連絡をとりながら、計画を立て、可能なものについては実施していくこととしたい。 ノーベル賞に関する推薦・被推薦の事情が明らかになることで、現在まであまり知られていなかった日本内部での状況が垣間見えることも多い。これらについては、国内でのより緻密な調査が必要であり、まずは公刊された資料に基づく検討で概要を確認したのち、可能なものについては書簡・草稿・日記などを利用した分析を行うことも検討する。公刊資料に基づく概要の把握とともに、これを越えた段階の計画についても、まずは利用可能な資料の所在や性格を確認することから、検討を進めていく。
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Causes of Carryover |
2022年度もcovid-19に関わる状況について不明な時期が長く続き、国内外での調査について、実施のみならず計画策定に関しても不確定性が高かった。出張に伴う出費がなかったために今年度の使用額が低く抑えられ、次年度使用額が生じた。 次年度以降は、関連する資料の購入のほか、国内外での出張を可能な範囲で実施し、あわせて資料の利用の容易化(デジタル化、資料保存用機材の購入、倉庫を利用した保管など)を行う。
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Remarks |
東京大学総合文化研究科・教養学部駒場博物館において実施した、アインシュタイン来日に関する展示を紹介するウェブサイト。
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Research Products
(7 results)