2023 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半の自然科学系ノーベル賞における日本関連の推薦・選考等の動向の研究
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22K00267
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡本 拓司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30262421)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 野口英世 / 湯川秀樹 / 朝永振一郎 / 山極勝三郎 / アインシュタイン |
Outline of Annual Research Achievements |
東京大学駒場博物館において、2023年3月から2024年4月にかけて、1922年11月~12月に滞日した物理学者、アインシュタインに関する展示を行った。日本に上陸する直前にアインシュタインのノーベル賞受賞が決定され、その知らせがアインシュタイン歓迎の気運を高めたことから、彼の来日は当時の日本の知識人や一般社会が抱いていたノーベル賞像の一面を伝える出来事であったと看做すことができる。展示ではこうした側面を紹介しつつ、各地におけるアインシュタイン歓迎の動き、反相対論によりアインシュタインに挑戦しようとした土井不曇の動向なども具体的資料に基づいて描写し、当時の日本における科学への姿勢の一端を明らかにした。 『現代化学』誌上において、第1回のノーベル生理学・医学賞に対する北里柴三郎の推薦から、1965年の朝永振一郎のノーベル物理学賞受賞までの事例について、推薦・授賞された研究の概要や推薦者の動向、推薦者の国内外のネットワーク、ノーベル委員会における評価などについての分析を、2023年4月から2024年3月までの12回に分けて発表した。各回の分量は3500字程度と短いが、全体を通して日本の科学者の国際的なネットワークが拡大する様子を描写した。具体的には、日本人として初めて世界的な研究者間の協力に基づく推薦を受けたのが野口英世であること、業績としては今日高く評価される山極勝三郎や、実際に受賞に至った湯川秀樹の場合には、そうした国際的な協力関係に基づく支援の影響はほとんど見られないこと、朝永振一郎の場合にはファインマンの業績への注目が朝永への推薦の主要な動機になっていることなどを明らかにした。 2024年3月には、スウェーデン王立科学アカデミー科学史研究所において、物理学賞・化学賞の推薦状と選考資料の調査を実施し、1973年までの推薦・受賞の事例について基礎資料を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1901年から1965年に至るまでの事例については、『現代化学』誌上での連載により、2023年度中に主要な例について精査し、推薦の動向の全体を通して見られる傾向について、ノーベル賞選考資料以外の情報も用いながら、明らかにすることができた。また、2023年3月から2024年4月にかけて実施した展示により、研究によって具体的に得られた成果について、論文や学会発表以外にも、大学の博物館を用いた展示を通して発表する方法が有効であることを確認した。さらに、ノーベル賞に対する日本が関連する推薦とは直接かかわりのない出来事についても、当時の日本における科学やノーベル賞に対する姿勢を理解するための貴重な材料を与えうる分析対象であることを指摘することができた。 王立科学アカデミーにおける資料の調査と収集の結果、1973年までの推薦・受賞の事例について、推薦状やノーベル委員会における評価など、基本的な情報を得ることが出来た。 以上の通り、当初想定していなかった成果を得ながら、研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに1966年から1973年までのノーベル物理学賞・化学賞の推薦・選考に関する資料を得たことから、今後はこの資料群の分析を中心に研究を進めることとなる。日本が関わる推薦は、1949年の湯川秀樹の受賞から徐々に増えていくが、1965年の朝永振一郎の受賞はその動向をさらに推し進めることとなり、日本人としての二度目の受賞は、初回の受賞とはまた異なる意義をもつことが理解されうるものと思われる。 また、日本の研究者が対象とする領域の拡大、その成果の高度化により、日本国内で想像されうる動向を離れて、国際的な研究の潮流の影響を受け、外部からは想像しづらい状況に基づく評価が生まれる例や、それが推薦や受賞に結び付く例も増えていくことが想像される。今後は、こうした過程についても、その帰趨を描写することを目指す。 2023年度には、研究成果の発表の場として、小規模であっても展示を行うことが有効であることが確認されたが、同様の機会が生じた際に展示を準備して対応できるよう、展示による発表に適した資料の整理なども並行して進める
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Causes of Carryover |
旅費の支出が計画よりも少ないが、今後国内での調査に使用する予定である。また、収集済の資料の保存、分析のための物品の購入が計画通りには進まなかったため、2024年度以降にこれらの作業を実施する。
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Remarks |
アインシュタイン来日100周年に関する展示であるが、ノーベル賞や科学全般に対する1920年代初期の日本での理解を示す資料も出陳した。
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