2022 Fiscal Year Research-status Report
『オセロー』のFolio-only Passageに関する研究
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22K00374
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
辻 照彦 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (30197678)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | オセロー / 第一・四つ折り本 / 第一・二つ折り本 / F-only passage |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は『オセロー』の比較的長めのFolio-only passageに焦点を当て、今まであまり注目されてこなかった三つの特徴を明らかにした。一つ目の特徴は、テクスト上の問題箇所(crux)が存在するケースが多いことである。例えば、3幕3場でオセローがイヤーゴに語る“My name、 that was as fresh / As Dian’s visage” という台詞のMy nameについて、多くの編纂者がHer nameに変更すべきか悩んできた。このような問題個所はいくつかのF-only passageに見られる。二つ目の特徴は、意味があいまいな表現が含まれるケースが多いことである。例えば、3幕3場でイヤーゴに嫉妬を掻き立てられたオセローが「紐、ナイフ、毒」と叫ぶとき、編纂者の意見は、オセローは自殺を考えているとする解釈と、キャシオーとデズデモーナに対する復讐をイメージしているという解釈に分かれてきた。このようなあいまいな表現が含まれるのも、いくつかのF-only passageに共通する特徴である。三つ目の特徴は、コミカルな要素が含まれるケースが多いことである。例えば、4幕2場のデズデモーナが、ひざまずいて自分の潔白を誓うときに駄洒落を言う場面である。このような場違いとも言えるコミカルな要素は5幕2場のエミリアの台詞にも見られる。 研究代表者は、F-only passageはQの印刷の過程で削除されたと考えている。削除の理由は、多くの場合、複数存在したはずだが、今回分析したF-only passageの三つの特徴は、それらが印刷原稿から削除されたことと深い関係があるはずであり、とりわけ、あいまいな表現とコミカルな要素の削除は、削除者の意図が、主人公たちのイメージアップにあったことを示唆しているように見える点で大変興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『オセロー』のテクスト問題の核心ともいえるF-only passageについて、網羅的な分析により三つの特徴を明らかにすることができたことで、残されたF-only passageの分析と、F-only passageが第一・四つ折り本の印刷過程で削除された理由を解明するという目標に向けて着実に前進することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、前年度に得られた成果をもとにして、『オセロー』のF-only passageの分析を続ける。特に、『オセロー』のF-only passageの中で最も大規模なものである、デズデモーナのWillow Songに関する部分を取り上げる。Willow Songの歌詞自体と、その前後のデズデモーナとエミリアの台詞に含まれる問題点を中心に分析する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、購入を予定していた複数の新刊研究書の発行が延期されたことと、購入予定だったタブレット端末の入荷が大幅に遅れていることが原因である。正常化を待って速やかに購入する予定である。
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