2022 Fiscal Year Research-status Report
フランス第二帝制下の外交と極東戦略 -外務機構改革の視角から-
Project/Area Number |
22K00954
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Research Institution | Nishogakusha University |
Principal Investigator |
野村 啓介 二松學舍大學, 文学部, 教授 (00305103)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | フランス外交 / 外交代表 / 外務省 / ナポレオン3世 / 幕末日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は,異文化(日本)と直接的に対峙した外交代表の思想と行動に関する前課題[H30~R3年度・基盤研究(C)「第二帝制下フランス外交の異文化経験と極東戦略に関する基礎研究」(課題番号18K01020 研究代表者:野村啓介)]の成果をふまえつつ,残された課題にとりくんだうえで,本国政府による外交政策決定,およびその背景にある極東戦略の形成・変容を,外務本省レベルの諸問題から実証的分析にたって捉えかえすことである。 令和4年度においては,後述の事情から国内で入手可能な資料の収集・読解にのみ専念した。第一に,外交代表の本国宛報告書を主史料として,日本と直接的に対峙した外交代表の日本国制観,天皇・将軍観を別の角度から捉え返すことができるのではないかとの期待から,16世紀後半のイエズス会宣教師から19世紀のシーボルトにいたる日本記述を洗い直すという前年度に着手した課題を,さらに深く検討することを企図した。そのため皇帝概念に焦点をあてて検討を進め,フロイスに京のミカドを"imperator (empereur / emperor)"ととらえる思考法はまだみられないが,17世紀末のケンペルにはその兆候がみられることから,今後は豊臣秀吉や徳川家康あたりの時期が認識転換の画期だったのではないかとの作業仮説にたって,ヨーロッパ史における皇帝概念(imperator, imperium)の変容も考慮にいれたうえで考察を深めたい。 第二に,フランス本国外務省の地域担当課再編についての課題に着手した。第二帝制期をつうじて,政事局と領事・貿易局の担当地域が厳密に同一だったわけではなく,またほとんどの時期,極東地域が南北アメリカと同一の政事局担当課であった事実などをどう理解するかという課題が浮上した。この問題に関しては,フランス本国での一次史料収集が不可欠であるため,次年度に期したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の影響は緩和されたものの,ウクライナ情勢の悪化にともなって空路事情も劣悪となり,航空運賃や滞在費などが高騰し,渡欧の不自由さは解消されないままである。これにより,旅費が予算を大幅に上回ってしまう状況となった。くわえて,本年度から勤務することとなった本務校の業務が多忙を極めたことは想定外であり,渡欧の時間的余裕を奪う結果となった。以上により,フランスとイギリスをはじめヨーロッパ各国の史料館において関連史資料を収集することが困難となったため,国内で入手可能な資料の収集・読解に専念する方向で作業をおこなった。 本課題では,本国外務機構の諸問題,およびそれとフランスの極東戦略の史的関係についての研究を深めるために,外務省機構の制度的側面の検討を進めたいと考えていたが,フランスでの史資料収集ができない以上,既述のとおり,国内で入手可能な資料によりこれを補う必要があった。なお,イエズス会宣教師からケンペル,シーボルトにいたる日本記述を検討する作業については順調であり,難解なフロイス書簡の読解も当初の予定どおり進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究活動の遅延を最小限にとどめるべく,次善の策として,すでに収集した史料を再読・熟読するとともに,日本国内で参照できる16世紀のイエズス会宣教師や18-19世紀のケンペル,シーボルトなどによる日本記述をサーヴェイした。次年度においても,ひきつづきこの作業を着実に進める予定である。ただし,コロナウィルス感染症に関連する多くの制約が緩和されることが期待され,渡欧のための種々の環境が改善されることとなれば,夏期または冬期に渡欧して史資料を収集することが可能になるものと見込まれる。
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Causes of Carryover |
国内旅費は必要に応じて使用できたが,史資料収集のために渡欧する旅費を使用できなかったため,かなり多くの未使用額が発生した。しかし,上記の交通事情が改善することにより次年度での渡欧可能性が現実味を帯びてきたため,夏期または冬期に長期(あるいは短期を複数回など)の欧州滞在を計画している。ただし,パリなど大都市圏での滞在費が高騰したままであることも十分に予想され,史資料収集に十分な滞在期間の確保が難しいのではないかとの危惧もあるため,研究計画の微修正ともども,注意深く状況を観察しつつ,さまざまな可能性を探りたい。
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Research Products
(2 results)