2022 Fiscal Year Research-status Report
多様な人々が身体を用いて関わりあう現代のアイヌ舞踊展示ー民族の現況理解に向けて
Project/Area Number |
22K01079
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
吉本 裕子 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 客員研究員 (20731053)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アイヌ / 舞踊 / 観光 / 展示 / 現代性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、主に以下の3つの課題を設定している。①博物館・観光地での「見せるためのアイヌ舞踊」の歴史的変遷と現代のデジタル技術を駆使した新たな舞踊実演の実態解明②多様な実演者(アイヌ・非アイヌ・職業舞踊家・保存会会員等)や観覧者(主流社会の人々)における現代アイヌ舞踊の受容の仕方について③博物館・観光地ではない地域(場)における文化保存会の舞踊実演の実態と地元住民とのかかわりの探究。 初年度は白老、平取、帯広等を調査対象とした。北海道立図書館、公立図書館・博物館で各文化保存会の歴史や、観光と舞踊継承とのかかわりについて文献を収集し、昭和期に記録された映像を視聴しつつ、今日の舞踊実演との差異を検証した。 課題①については、事前調査済みの白老(ウポポイ)や阿寒アイヌシアターイコロの情報をSNSや新聞等で収集した。2022年度はコロナ禍ということもあり、舞踊実演者と見る者(観光客・観覧者)が共に踊る場面は設定されず、身体的交流の調査は滞りぎみである。 一方で、研究課題全般を探究するための基礎準備として、研究代表者は北海道アイヌ協会が北海道教育委員会より委託を受けて実施しているアイヌ古式舞踊の講座に参加した。古式舞踊の基本的な身体動作を学んだことで、より多角的な視点から今日の舞踊実践を捉えることができるようになった。 毎年、新ひだか町で開催されるシャクシャイン法要祭は、全道各地の文化保存会が集結し、シャクシャイン像前で各地の舞踊を奉納・披露するが、2022年度は天候不良により大幅縮小して実施されたため、各地の多様な舞踊を見ることはできなかった。課題③を探究するうえで、この法要祭の調査は欠かせないと考えられ、2023年度再調査を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、研究代表者の体調不良や家庭の事情により、予定していた長期調査を行えなかった。短期調査を繰り返すだけでは、新たな調査地での人脈構築や信頼関係の構築に時間を要し、聞き取り調査を実施するまでには至らなかった。また上述したように、新型コロナウィルスの影響により、舞踊実演者と観光客が共に踊ったり、対話したりする機会が制限される場面が多くみられ、本研究課題の調査も滞る側面があった。2023年度はコロナ対策が緩和され、次第に相互交流の機会も増えてきており、本格的な調査が可能になると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
帯広は、研究課題③の対象地と考えていたが、近年、古式舞踊の観光資源化が急速に進んでいることが分かった。帯広での参与観察を継続する一方で、博物館・観光地ではない地域(場)での事例として、首都圏のアイヌ関連団体における舞踊の実態調査も併せて進めてゆく。首都圏では、アイヌと沖縄にルーツを持つ人たちが中心となり、毎年11月に東京中野で「チャランケ祭」を開催しており、祭祀儀礼行事として他の地域住民とのかかわりにも注目し、実地調査を進める。 また白老(ウポポイ)では、2021年度より道内各地の保存会に、園内のホールで古式舞踊を上演する機会を提供している。2023年度も13保存会の公演が予定されており、これまで博物館等での公演経験が少ない保存会も出演する。こうした保存会の「舞台化」が進む状況にも注目する。 2023年度、聞き取り調査を本格化させるために、海外の民族舞踊研究を専門にしている研究分担者1名を追加する予定である。今後コロナ対策が緩和され、舞踊実演者と観光客との相互交流が増えることが予想され、身体的交流の諸相に着目し、聞き取り調査や参与観察、映像撮影を加速的に進めてゆく。 加えて、海外の民族芸能や博物館等での舞踊展示に関する先行研究を精査し、理論的枠組みを参照しながら、聞き取り調査や映像データの分析も並行して進め、今日の新たな舞踊展示のあり様が、従来からの先住民展示の困難さを乗り越えるものとして、成立しうるのかを問う。 また初年度に収集した文献資料と2023年度4月に調査済みの聞き取りデータを元に、秋季の国内学会で口頭発表を予定している。
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Causes of Carryover |
初年度は、上述したように長期調査を行うことができず、聞き取り調査や映像撮影を実施できなかった。よって、聞き取り者への謝金、映像撮影補助者の旅費・謝礼が消化されず繰り越しとなった。 2023年度4月、白老、阿寒で6日間のフィールド調査を実施し、6名への聞き取り調査と映像撮影を行い、繰越額の7割近くをすでに消化した。2023年度は、聞き取り調査を本格化するため、残額は旅費と聞き取り者への謝金等に使用したい。
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