2023 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本社会における金銭観と金銭作法に関する歴史社会学的研究
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22K01833
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
永谷 健 三重大学, 人文学部, 教授 (50273305)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 経済エリート / 近現代日本 / 金銭 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の二年目にあたる2023年度は、昭和戦前期から戦後数年間の期間における経済エリートの言動をおもに調査することにより、戦前期経済エリートの反利己主義的な言動のあり方と戦後におけるその変容について考察した。考察で明らかになった点は次の通りである。 1.近代日本の経済エリートたちは明治期を通じて傑出した経済的地位を得たが、金儲けに対する蔑視が根強いプレモダンの思潮のなかでは、彼らの金銭的成功は批判や攻撃の対象になりやすかった。 2.彼らは機会を捉えて自分の事業やその結果もたらされる富の蓄積を正当化した。国益・公益事業への寄付と並んで彼らが熱心であったのが、自分の事績や現在の事業が国益・公益につながる反利己主義の営みであることを雑誌や書籍で語ることであった。彼らはメディアとの〝共犯関係〟のなかで、これまでの成功の人生や日常生活が道徳的な徳目に依拠していたことを趣旨とする自伝的な語りを大量に生み出した。 3.渋沢栄一や森村市左衛門などの影響力のある財界人は修養団と接近し、また、帰一協会の企画に関与した。彼らの反利己主義的な言動は、道徳・宗教と実業の関係を強く印象づけた。また、二・二六事件に関する他の財界人の発言では、やはり反利己主義の主張が見られる。 4.実業の道徳化とも言える彼らの動きは経済拡張期の思潮とは相容れなかったが、その企てや実業の道徳化を是とする思想自体はその後もなくなることはなかった。むしろ、そこに見える反利己主義の思想は、昭和戦前期における経済の失速のなかでナショナリズムと接点を持ったと推測される。 5.戦前期経済エリートの反利己主義の思想は戦後における財界人の発言にも多く確認される。戦後に流布した反利己主義の言説は戦後日本社会における大衆的な金銭観の一要素となったことが推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も研究に必要な資料の収集に努めており、その蓄積は進んでいる。また、中間的な研究成果も公表した。ただ、戦後における財界人関係資料、および、大衆レベルの金銭観に関する資料については、まだ収集が十分であるとは言えないため、資料の収集を継続する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度の前半期においては、研究に必要な資料、とくに戦後における雑誌記事や新聞記事、金銭教育に携わる教育機関関係の資料、貯蓄動向・消費動向に関係する資料を集中的に収集し、後半期では研究成果の執筆に注力する。
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Causes of Carryover |
研究に必要な資料とその所在に関する事前調査に時間を割いたため、資料収集のための出張、および、資料購入が十分には行えなかった。とくに日本の第二次世界大戦後における大衆レベルの金銭観や金銭作法についての諸資料の収集に多くの時間を費やせなかった。2023年度で研究に必要な資料やその所在がある程度明らかになったので、2024年度は多くの時間を費やして資料収集を行う予定である。
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Research Products
(1 results)