2023 Fiscal Year Research-status Report
リサイクル材料・新蛍光素材によるK0稀崩壊実験用VETO検出器の高速応答化の試み
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22K03659
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
吉田 浩司 山形大学, 学士課程基盤教育院, 教授 (80241727)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 粒子線検出器 / シンチレーター / 波長変換ファイバー |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度にUVSOR放射光を用いて蛍光寿命等の物性実験をおこない,応答性能等の評価を確定し製造メーカーのカタログに記載できる値(蛍光寿命 ~1.3ns)を得ることができた2種の高速応答WLSファイバーのうちの1種(YS6)についてプラスティックシンチレーター(EJ-200)と組み合わせたテストサンプルを製作し,東北大学電子光理学研究センター(ELPH)の陽電子ビームを用いて応答性能(時間,発光量等)の評価実験をおこなった。 200x200x5mmのシンチレーター板に幅・深さともに約1mm超の溝を10mm間隔で掘り,そこに読み出し用のWLSファイバー(直径1mm)を埋め込んだ。実験データを直接比較できるよう,WLSFとしてY11を埋め込んだテストサンプルも同寸法同仕様で作成した。この2枚のテストサンプルを互いに遮光した上で重ね合わせ,串刺しになるよう455MeV/cの陽電子ビームをテストサンプルに垂直に入射した。それぞれのシンチレーターの光出力は光電子増倍管に集光され,その電気信号出力を収集・観測することでテストサンプルの応答性能を評価した。 結果,観測された光電子増倍管の出力信号波形は,Y11のものに比べてYS6の方が明らかにパルスがシャープになっており,YS6の短い蛍光寿命を反映したものになっていることが確認できた。一方,YS6で得られた電荷量はY11の7割程度であった。これについては,シンチレーターの発光スペクトルとWLSファイバーの吸光スペクトルとの親和性,集光系の加工精度や光学的な状態のばらつき,その他ファイバーの機械的な性質の違いなど,さまざまな原因が考えられ,さらなる解析と考察が必要である。 上記ビーム実験に加えて,J-PARC E14 KOTOの将来計画に向けたさまざまなシンチレーターの物性実験をUVSORでおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年からの2カ年の研究を以下の3編の修士論文にまとめることができ,本研究の中間サマリになるとともに,次年度以降の研究にデータブック/マニュアルとして参照・活用できるものになった。 (1) 『小型デジタイザによるPMT信号波形の直接処理と蛍光寿命測定への応用』 (2) 『WLSFiberを用いたサンドイッチカロリメーターの応答の高速化の試み』 (3) 『加速器のエネルギー増強にともなう光子標識化装置への反跳電子軌道への影響の評価』。 (1)での成果を受けて,5Gsps (1Gsps) -Digitizerを用いた簡便な検出器評価ベンチシステムにより,UVSORのマルチバンチ運転下でも高速なシンチレーターの時間応答(蛍光寿命が1~2ns)の測定が可能になり研究の効率を向上させることができた。(2)では多様なシンチレーター素材の基礎物性の探索研究から出発し,検出器の試作サンプルの製作とそのビーム実験にまで辿り着くことができ,さらに今後の研究の課題を洗い出すことができた。次年度に向けて研究の方向性を絞り込むための考察材料を多く得られたのも大きい。(3)ではTagging Counter用にMPPCを高速応答に対応させる技術・経験を積み重ねてきていて,これはそのまま本研究の光デバイス関連のスタディとしても進捗させることができており,WLSファイバー集光系の光デバイスとしての可能性を探る上で大いに役立っている。 継続的に課題に取り組めるよう,実験に必要な電子回路や放射線源(検出器のベンチテスト用に高いエネルギーのβ線を放出することができる106Ruなど)も整備できた。
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Strategy for Future Research Activity |
シンチレーションファイバーやWLSファイバーでカロリメーターをセグメント化する利点は,言うまでもなく無機結晶シンチレーター以上の位置分解能や角度分解能を狙えることを期待できるからである。中性K中間子の稀崩壊実験において,大部分の体積を占めるVETOカウンターに位置測定性能,角度測定性能を持たせることは,標準理論を超えた物理事象の検出を目指す将来計画にとって重要である。 2024年の1月にタングステン板とシンチレーションファイバーで構成したカロリメーターのビーム実験をELPHでおこない,当該検出器の3次元測定性能についてのスタディを始めたところである。 2024年度はその実験データを解析しつつ,そこから得られた知見を,WLSF集光系を有するサンドイッチカロリメーターに応用していきたい。特に光電気信号変換デバイスとしてMPPCを用いることにより,検出器にワイヤーチェンバーのような機能を持たせることを目指していく。新世代のMPPCが低ノイズであり,単一光子測定も容易にできるようになってきていることは本学の研究でも明らかにされている。 これまでの研究で使用してきた,鉛板,光電子増倍管,MPPC,WLSファイバー,検出器治具・フレームを活用し,積層したサンドイッチカロリメーターを試作しスタディを進めていきたい。
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