2023 Fiscal Year Research-status Report
磁場による金属ナノ構造体制御に基づくキラル認識SALDI-MSの開発
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22K05171
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
飯國 良規 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60452215)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | SALDI-MS / MHD効果 / ガルバニ置換 / キラル分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
TEM用の試料ホルダとして市販されている銅製マイクログリッドを塩化金酸中に一定時間浸漬させることで、ガルバニ置換(GD)によりグリッド上に金ナノ構造体を析出させSALDI-MS用基板を作製した。このとき塩化金酸濃度を0.01 mMから2.0 mMまで変化させてGD反応により作製した。また、磁場についても1対の永久磁石により0.61Tから1.0Tまで、磁気回路を用いて1.5 Tを印加した。作製したGDグリッドをSEMにより観測したところ、磁場および塩化金酸濃度により析出する金のナノ構造体の形やサイズ、析出量が変化していることがわかった。さらに、作製したGDグリッドを用いたレセルピンのSALDI-MS測定を行うことで、最もMSシグナル強度の高く、かつ再現性のが高くなるGD反応の最適条件について明かにした。 本GDグリッドを用いてD-アルギニンおよびL-アルギニンを試料として用いてSALDI-MS測定を行うと、それぞれのMSシグナルが観測されアミノ酸のイオン化にも有効であることが示された。さらに印加磁場強度、印加磁場方向によりD-アルギニンのシグナルが強く観察されるGD条件、L-アルギニンのシグナルが強く観察されるGD条件が見られ、SALDI-MS測定におけるキラルなアミノ酸のイオン化効率に対して、GD反応により生成する金ナノ構造体がMHD効果によりイオン化効率のキラル選択性を発現し、また選択性の再現性を確認できた。一方で、磁気回路に合わせたガラス製GD反応容器を自作し、全ての磁場においてGDグリッドを作製しSALDI-MS測定におけるイオン化効率のキラル選択性を確認したところ選択性および選択性が低下した。これは自作した容器のサイズが多きく影響したと考えられ、GD反応制御のための新たな因子を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において根幹となる銅グリッド上へ金ナノ構造体を生成するためのガルバニ置換反応の最適条件について、これまでの無磁場下での温度、塩化金酸濃度、反応時間等の各条件だけでなく、磁場を印加してGD反応を行うことで生成した金ナノ構造体のSALDI-MS測定におけるイオン化効率への磁場の影響について明かにすることができた。また印加磁場強度を変化させることで印加磁場強度の最適条件についても明らかにするとができた。 さらに、キラルなアミノ酸を試料として用いたSALDI-MS測定に基づき、磁場中のGD反応により生成した金ナノ構造体がイオン化効率のキラル選択性を発現することが確認できた。これは本研究の当初の目的である金ナノ構造体制御に基づくキラル認識SALDI-MSの開発へ向けた大きて大きな前進となった。一方で、磁場中におけるGD反応に基づくキラル選択性制御の支配因子としてこれまで想定したものと異なる反応容器のサイズが影響を与えることが明らかとなった。このため、GD反応の最適条件のさらなる検討が必要となることが判明したが、これらの条件検討を行うことで磁場中GD反応により金ナノ構造体のキラル選択性の制御の可能性が示されたことから、一定の前進だと言える。さらに、本グリッド用いてグリッド上に塗布した試料のMSイメージング測定も試みており、一般的なMALD-MSイメージングと比較しても位置的均一性の高いイメージング画像が得られることが確認できた。これは次年度の研究開発事項につながる基礎検討である。以上のように本研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、磁場中GD反応により生成した金ナノ構造体のSALDI-MSにおけるイオン化のキラル選択性について、反応条件、印加磁場条件だけでなく反応容器のサイズが影響を与えることが明らかになったことから、反応容器内の物質移動が非常に大きな影響を有することが確認できた。そのため、サイズを変えた反応容器を自作し、これを用いて各条件においてGD反応を行うことで各条件でのGDグリッドを作製する。これを用いてキラルなアミノ酸のSALDI-MS測定を行うことでキラル選択性および再現性の高い作製条件を決定する。さらに、作製したGDグリッドを用いてキラルなアミノ酸が偏在するように塗布したGDグリッドのSALDI-MSイメージング測定を行うことでキラルなアミノ酸の2次元イメージング検出を試みる。さらに、イオン化効率とアミノ酸と構造体の相互作用の関係を明らかにすることでイオン化のキラル選択性の発現の原因を明らかにする。これには蒸気圧の低いイオン液体を溶媒として用いることで構造体との吸着状態を変えてSALDI-MS測定を試みる。また、GDグリッドを用いて、キラルなアミノ酸の表面増強ラマン測定およびサイクリックボルタメトリ―も行い、それらの結果を総合的に考慮することで、キラル選択性に最も寄与している因子を明らかにするとともに、キラル選択SALDI-MS法として確立を目指す。
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