2022 Fiscal Year Research-status Report
Full Elucidation of the Golgi Stress Response Mechanism
Project/Area Number |
22K06208
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
吉田 秀郎 兵庫県立大学, 理学研究科, 教授 (60378528)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ゴルジ体 / ストレス / プロテオグリカン / ムチン / コレステロール / 神経変性疾患 / TFE3 / KLF |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞小器官の量的調節機構は、細胞生物学の根幹に関わる重要な研究課題である。ゴルジ体の量的調節機構は、ゴルジ体ストレス応答と呼ばれる。研究代表者はゴルジ体ストレス応答の研究を創始し、これまでに4つの応答経路(TFE3経路、プロテオグリカン経路、ムチン経路、コレステロール経路)を発見した。それぞれの経路は、ゴルジ体ストレスを感知するセンサーやゴルジ体の機能を担う遺伝子の転写を誘導する転写因子、転写因子が結合するエンハンサー配列、転写が誘導される標的遺伝子から構成されているが、これらの制御因子はまだ未同定のものが多い。そこで本研究では、これらの制御因子を一網打尽に同定することを計画している。本年度は、哺乳類細胞を用いた遺伝的スクリーニングであるGeCKOスクリーニングを行うための細胞の樹立を行った。各経路のエンハンサー配列に蛍光タンパク質遺伝子をつないで細胞に導入し、ゴルジ体ストレス時には細胞の蛍光が増えるが、制御因子の遺伝子が破壊された変異細胞では蛍光の増加が抑制されることを利用してスクリーニングを行う。蛍光タンパク質として蛍光強度の高いmNeonGreenとtdTomatoを用いて細胞の樹立を試みているところである。また、転写因子専用のスクリーニング方法として酵母細胞を用いたone-hybrid法によってムチン経路を制御する転写因子の候補をいくつか単離しており、そのうちRelAについて遺伝子破壊細胞株を樹立しつつある。コレステロール経路については、ゴルジ体ストレス応答による細胞死を起こさなくなる変異細胞をGeCKOスクリーニングによって単離したところ、PI4P代謝に関わる遺伝子を多数単離した。ゴルジ体内にPI4Pが蓄積すると糖鎖修飾などのゴルジ体の機能が失われるとともにゴルジ体の断片化、ゴルジ体関連遺伝子の転写誘導、細胞死が誘導されることを見出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゴルジ体ストレス応答の制御因子を同定するために用いるGeCKOスクリーニング用の細胞株も順調に確立されつつある(国立感染症研究所の花田賢太郎博士と山地俊之博士との共同研究)。同定するべき制御因子は多数残っているが、GeCKOスクリーニングによって一網打尽に単離できるものと期待している。これまでに同定している制御因子についても解析が進みつつある。siRNAライブラリーのスクリーニング(東京大学薬学系研究科一條秀憲博士・名黒功博士との共同研究)では、TFE3経路の制御因子候補としてOMA1やTJAP1などを単離している。OMA1遺伝子を破壊すると転写因子TFE3がゴルジ体ストレス時に核移行しないが、TFE3の脱リン酸化は正常に起こる(TFE3は脱リン酸化されて核移行することがわかっている)ことから、OMA1はTFE3の脱リン酸化を認識して核移行を起こす装置に異常が生じていることがわかった。TJAP1はゴルジ体に存在するタンパク質であり、ゴルジ体ストレスの感知機構に関与しているのではないかと期待している。プロテオグリカン経路を制御する転写因子KLF2とKLF4はいずれもゴルジ体ストレス時に自身の転写が誘導されるが、その転写誘導機構を解析したところ、転写を制御するエンハンサー配列とそこに結合する転写因子の候補としてFOXL2を見出した。現在、FOXL2遺伝子の破壊細胞を作製しているところである。コレステロール経路が長期間活性化されるとトランスゴルジネットワークのPI4P量が増加して細胞死が誘導されると予想している。ゴルジ体に存在するPI4P量を測定しようとしたが、PI4Pの結合タンパク質や抗体を用いた方法、ELISAによる測定など様々な方法を試したが、今のところ測定することができていない。新規の測定方法を開発中である。以上のことから、本研究は順調に進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
TFE3経路に関しては、siRNAスクリーニングによって同定した制御因子の候補について解析を進める。具体的には、それぞれの制御因子の遺伝子を破壊した細胞を作製し、どのような過程が進まなくなっているかを調べることで、それぞれの制御因子の機能を推定する。また、それぞれの制御因子の活性がゴルジ体ストレス時にどのような制御を受けているか調べる予定である。プロテオグリカン経路に関しては、転写因子FOXL2の活性や発現がゴルジ体ストレス時にどのような制御を受けているか網羅的に調べる。また、GeCKOスクリーニングによって、ゴルジ体ストレスのセンサー分子を同定する計画である。ムチン経路に関してもこれまでに同定した転写因子RelAの活性制御機構を解析すると同時に、同定済みのエンハンサー配列を用いてGeCKOスクリーニングを行い、ムチン経路を活性化するセンサー分子を検索する予定である。コレステロール経路に関しては、トランスゴルジネットワークにPI4Pが蓄積するとどうしてゴルジ体の機能が失われるのか、リポソームを用いたin vitroの再構成系で解析する計画である。また、PI4Pの蓄積からOSBP2の転写誘導に至る過程を明らかにするため、転写誘導を制御する転写因子やエンハンサー配列を同定する。同定した転写因子に関して遺伝子破壊を行うとともに、転写因子の活性制御機構を解析する。更に、同定したセンサー分子や転写因子などゴルジ体ストレス応答の様々な制御因子についてノックアウトマウスを作製し、個体においてどのような表現型がみられるか解析することによって、ゴルジ体ストレス応答の各経路の生物学的重要性を解明する。特にゴルジ体の機能が重要な組織(脳や腸、各種分泌腺など)に解析を集中する。そこで得られた結果を応用し、ヒトの疾患の予防・診断・治療のための研究基盤を構築し、ゴルジ体ストレス応答の全貌を解明する。
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