2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K07843
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
澤田 博文 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (30362354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 一男 鈴鹿医療科学大学, 保健衛生学部, 教授 (20181828)
西村 有平 三重大学, 医学系研究科, 教授 (30303720)
三谷 義英 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (60273380)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 肺動脈性肺高血圧 / 骨形成因子受容体2型 / 動物モデル / ゲノム編集 / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
肺動脈性肺高血圧( PAH)は、骨形成因子受容体2型( BMPR2 )遺伝子変異等を基盤として発症する難治性予後不良疾患である。2000年代以降本症に対して肺血管拡張薬による治療が導入され、予後改善が見られたが、いずれも対症療法であり、肺血管病変退縮は達成されない。本症の肺血管病変の形成機序については未解明な点も多いが、今回、主要な遺伝子変異であるBMPR2 変異の生体での役割に焦点をあてた。本研究では、CRISPR/Cas9によりPAH患者と同様のBmpr2 変異 をラットに導入し、ヒトPAH類似の進行血管病変をもつPAHモデルとヒトPAH同様の致死的な経過をたどる2つのモデルを用い、肺と心筋でmRNA発現解析(トランスクリプトーム解析)を行い、発症機序に基づく新たな治療標的の開発を目的とする。本研究期間内に仮説「 Bmpr2 遺伝子変異により細胞レベルでの機能障害から肺血管病変の増悪、右室機能の低下を来たし生命予後を悪化させる。」を検証するため、以下の達成目標を設定し研究を進める。 目標1:Bmpr2 遺伝子変異ラットの肺高血圧では、野生型に比べ、肺血管閉塞病変が高度であるか、右室機能が高度に障害されるか、を明らかにする。目標2:変異ラットと野生型ラットにおいて、肺組織と右室心筋の遺伝子発現パターンをRNA-seqにより解析し変異ラットの病態悪化に関連する経路を同定する。目標3:同定された経路を治療標的として開発するための基盤を確立する。 本年度の研究では、肺血管病変や肺動脈圧、肺血管抵抗など肺血行動態指標と右室機能の相関の解析を行ったところ、Bmpr2変異による右室機能の悪化の機序が、PDE5阻害剤投与下でのみ後負荷に依存しない心筋の障害によるものの可能性が高いことが判明した。これは、右心不全管理の重要性を示すものであり、臨床的にも重要な治験である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
期間内に以下の結果を得て研究進行中である。 CRISPR/Cas9を用いてBmpr2遺伝子のExon1にフレームシフト変異を導入したラットを作製した。変異ラットは、BMPR2シグナルが有意に減弱していることを確認。7週齢のラットにモノクロタリン(MCT、60 mg/kg)を皮下投与し、投与3~4週間後に評価したところ、(TAPSE、右室機能指標)はBmpr2変異ラットで低下した。また、非代償性右心不全の有無を評価したところ、モノクロタリン投与後3~4週で変異体ラットの方が非代償性右心不全の割合が高くなった。これらのことか ら、Bmpr2変異は、モノクロタリン誘発進行性PHモデルの病変進行期(投与後3~4週間)においてのみ右室機能を悪化させることが示唆された。モノクロタリンモデルにおいて、投与14日後からのPDE5阻害剤投与により、野生型ラット、Bmpr2変異型ラットともに生存期間が延長したが、投与42日後までにBmpr2変異型ラットの生存率は野生型ラットに比べて低く、重度の右室心筋線維化が見られた。無治療とPDE5阻害剤投与下では、心筋障害の機序が異なることを見出しており、今後、その分子機序を中心に解析を行なっていく予定である。肺血管病変や肺動脈圧、肺血管抵抗など肺血行動態指標と右室機能の相関の解析を行ったところ、Bmpr2変異による右室機能の悪化の機序が、PDE5阻害剤投与下でのみ後負荷に依存しない心筋の障害によるものの可能性が高いことが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
MCTモデルでは、Bmpr2変異が非代償性心不全にいたる機序を促進するかどうかをさらに検討するため、肺血管閉塞性病変の評価に加え、右室と左室の心筋組織学的評価として、心筋内の血管数の評価、心筋線維化の評価を行う。機序に関しては、BMPR2経路、炎症機序、心筋線維化の面から、遺伝子発現や蛋白発現を、RT-qPCR, 免疫組織染色を用いて解析を進める。さらに、PDE5阻害剤投与の条件での、右室機能に着目し上記の項目について解析を行う予定である。これらの知見から、各病態ステージでの右室心筋での遺伝子発現パターンの網羅的解析を行い、新たな右心不全治療標的の同定に向け研究を進める。
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Causes of Carryover |
肺組織での遺伝子発現解析に関する箇所が、今年度内に完了せず、結果により、必要な、抗体、PCR試薬の購入を検討するため、次年度以降のこれらの試薬購入費用として使用する予定である。
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