2023 Fiscal Year Research-status Report
新たなpost-GWAS方法論による原発性胆汁性胆管炎の発症機序の全貌解明
Project/Area Number |
22K08065
|
Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
人見 祐基 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所, 疾患ゲノム研究室長 (10525819)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ゲノムワイド関連解析(GWAS) / 原発性胆汁性胆管炎(PBC) / 疾患感受性遺伝子領域 / ゲノム編集 / CD58 / PTPN2 |
Outline of Annual Research Achievements |
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、慢性進行性の胆汁鬱滞性肝疾患であり、胆管上皮細胞に対する自己免疫反応の関与が示唆されている一方で、その発症および進展機序は未だ不明なままである。 疾患の罹りやすさに関連する遺伝子領域を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析(GWAS)を用いて、申請者らの研究グループはこれまでに、ヒト白血球抗原遺伝子群(HLA)をはじめとする多数の日本人PBC感受性遺伝子領域を同定するとともに(Hitomi Y, et al. 2019など)、英国などの研究グループとの国際共同研究によるGWASメタ解析を実施してきた(Cordell HJ, et al. 2021; Asselta R, et al. 2021)。 令和5年度は、アジア人においてPBC感受性との特に強い関連を示す遺伝子領域であるCD58を対象として、発症に直接寄与する機能的バリアント(causal variant)のrs10924104を、in silico解析・in vitro機能解析にて同定するとともに、このrs10924104がB細胞におけるCD58発現量を転写因子ZNF35を介して直接制御することをゲノム編集を用いて発見し、CD58に由来するPBC発症機序を解明した。 さらに、日本人を対象として症例数を増やしたGWASを実施し、新規PBC感受性遺伝子領域PTPN2を世界で初めて同定した。シグナル伝達抑制型分子PTPN2には、IFN-g刺激によってPTPN2発現量が亢進しIFN-gからのシグナルそのものを抑制する「negative-feedback機構」が存在することに加え、この遺伝子領域のcausal variantであるrs2292758によってnegative-feedback機構が制御されることを、PBC患者の肝臓を対象としたトランスクリプトーム解析にてそれぞれ発見した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、国際GWASメタ解析にて同定されたPBC感受性遺伝子の一部について、発症に寄与する機能的なバリアント(causal variant)の同定、および、そのバリアントに起因する発症分子メカニズムの解明に、それぞれ至ったため。 さらに、新たに日本人を対象として実施したGWASによって、新規PBC感受性遺伝子領域PTPN2を世界で初めて同定するとともに、PTPN2に由来するPBC発症機序を解明することができたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
国際GWASメタ解析にて同定されたその他のPBC感受性遺伝子領域について、発症に寄与する機能的なバリアント(causal variant)の候補からの絞込み、および、バリアントに起因する発症分子メカニズムの解明をさらに推進するために、以下の解析を実施する。 1.すべてのPBC感受性遺伝子を対象としたin vitroの機能解析、特に、ゲノム編集技術を駆使し、よりcausalvariantに特化した解析を実施する。 2.バリアントによる遺伝子発現への影響を検討するためのeQTL解析を、複数の信頼できるデータベースを用いて実施する。 3.血清や末梢血単核球を用いた発現解析を実施する。
|
Causes of Carryover |
当初の研究計画に沿って研究を進めていた一方で、新たな興味深い知見が見出されたため、その知見に対する更なる解析が必要となった。 また、これら知見を論文として一流誌に発表するにあたり、査読者からの指摘に回答するための精度の高い解析を数か月という短期間で完成させる必要があったため、そこにより多くのエフォートを割くことになった。 研究計画全体としては期待以上の成果が出ている一方で、この点に関しては、研究開始当初は予見できなかった。2023年度の研究費を2024年度に繰り越すことで、当初の研究開発目的を達成することができる予定である。
|