2022 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the mechanism by which atrial fibrillation causes systemic complications through extracellular vesicles
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22K08152
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
笹野 哲郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (00466898)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 心房細動 / 細胞外核酸 / 細胞外小胞 / cell-free DNA / バイオマーカー / 期外収縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
心房細動では血中の血中CRPの上昇などの炎症反応が生じる。一方、心房炎症は心房細動の発症・進展に関連する因子でもあり、心房細動と全身および局所の炎症は互いに増悪因子としてvicious cycleを形成するものと考えられる。心房炎症が心房細動を進展させる機構は広く研究されているのに対し、心房細動が炎症を惹起するメカニズムは未解明の部分が多かった。我々は、心房周囲に存在する心外膜脂肪に着目し、心房筋細胞から放出される液性因子が隣接する脂肪組織に与える影響について検討を行った。 心房筋細胞と脂肪細胞を、非接触系で共培養し、心房筋細胞に高頻度電気刺激を与えると、脂肪細胞内の炎症性サイトカイン産生が増加した。このとき、高頻度電気刺激によって心房筋細胞から放出された細胞外小胞が、脂肪細胞内の炎症性サイトカイン産生を惹起することを明らかにした。電気刺激の頻度と不規則性によって細胞外小胞の放出には違いがあり、高頻度かつ不規則な興奮の際に、最も放出された細胞外小胞の濃度が高かったが、炎症性サイトカイン産生誘導の程度にも違いが見られ、異なる刺激によって異なるプロファイルの細胞外小胞が放出されていると考えられた。 さらに、我々は心房筋から放出される細胞外小胞の定量法を確立し、各種病態における細胞外小胞の放出を評価した。心房筋細胞は、心房細動などの高頻度興奮や期外収縮などの不規則興奮、あるいは活性酸素種による刺激に対してそれぞれ特異的な細胞外小胞を放出し、これらの病態では細胞培養の培地中における細胞外小胞が増加していること、臨床症例において末梢血の細胞外小胞が増加していること、を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞外核酸・細胞外小胞を介した心筋細胞・脂肪細胞・マクロファージの相互作用の解明に取り組んだ。心房筋細胞に高頻度興奮を与えた際には、細胞外ATP、セルフリーDNA、細胞外小胞がそれぞれ放出され、液性因子として作用することを我々は報告してきたが、in vitroの実験系において、心房筋細胞に高頻度興奮刺激を与え、培地中に放出されたこれらの細胞外核酸・細胞外小胞の作用を、マクロファージ・脂肪細胞それぞれについて評価した。 マクロファージに対して、細胞外ATPは低濃度ではchemoattractant factorとしてマクロファージの遊走を惹起し、高濃度ではマクロファージ内のIL-1βなどの炎症性サイトカイン産生を誘導した。セルフリーDNAは、マクロファージに取り込まれてTLR9によって認識され、IL-6等の炎症性サイトカイン産生を誘導した。細胞外小胞はマクロファージと融合し、内包するRNAが細胞内に移動して、IL-1βの産生を誘導した。以上より、心筋細胞から放出される細胞外核酸・細胞外小胞は、それぞれ異なる機序で炎症を誘導すると考えられた。 脂肪細胞に対しては、細胞外ATP、セルフリーDNAを与えても変化は生じなかった。また、本研究で使用した3T3-L1細胞由来の脂肪細胞には、TLR9は発現していなかった。一方、細胞外小胞を脂肪細胞に加えると、細胞外小胞膜が脂肪細胞の形質膜に癒合すること、内包されるRNAが細胞質および細胞核に移行することが示された。さらに、細胞外小胞を加えた脂肪細胞では炎症性サイトカイン産生が増加することも明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 心房細動における病態特異的細胞外小胞のプロファイル分析:高頻度興奮刺激により心房筋細胞から放出された細胞外小胞には脂肪細胞の分化誘導シグナルを亢進させる作用があり、一方酸化ストレス刺激により心房筋細胞から放出された細胞外小胞は、脂肪細胞の分化誘導シグナルを抑制することが明らかとなった。この細胞外小胞のプロファイルの違いを、マイクロRNAの網羅的解析およびタンパクの網羅的解析により評価し、各種病態において心筋細胞と心臓周囲の心外膜脂肪組織がどのように関わるか、検討する。 2) 疾患特異的細胞外小胞のバイオマーカーとしての有用性の検討:発作性心房細動症例・心室期外収縮が多発している症例では、それぞれ血中細胞外小胞濃度が上昇していることが明らかとなった。これらの細胞外小胞を抽出して血管内皮細胞に加えると、NO合成酵素eNOSの発現が低下したが、その程度は心房細動症例と期外収縮症例では異なっていた。これらの細胞外小胞について、表面マーカーによるプロファイル分析と内包されるmiRNAのsmall RNA seqによる網羅的解析を行って、各種疾患の疾患特異的細胞外小胞の機能を評価する。
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Causes of Carryover |
細胞外小胞の定量手法の開発研究においては、他の助成金を利用したことで予算を温存することが可能であった。一方、細胞外小胞については、心房筋細胞の高頻度刺激・低頻度刺激および不規則刺激における細胞外小胞の抽出と、一部はマイクロアレイによる評価を行った。その解析に時間がかかり、その後に予定していた疾患特異的細胞外小胞に含有されるマイクロRNAの機能解析を次年度に繰り越して行うことになった。このため、予算を繰り越して次年度使用を計画している。
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