2022 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の「野菜」「果物」認識―北東北地方を中心として―
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22K13252
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
花木 宏直 関西学院大学, 文学部, 准教授 (80712041)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | マルメロ / 薬種 / 嗜好品 / 缶詰 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は主に、マルメロに関する資料収集と、秋田県と長野県に加え青森県にて現地調査を行った。その結果、秋田県では移輸出向けの缶詰加工、長野県では砂糖漬やジャムなど土産向けの製菓や日常の薬種ないし嗜好品での利用がみられた。青森県では秋田県と同様に移輸出向けの缶詰加工が盛んであり、明治期の青森県では水産と並びマルメロが缶詰の主力商品であったことが明らかになった。これらの成果を通じて、マルメロの生産や流通、利用の地域差の実態と、薬種から嗜好品へ一方的に変化したとはいえない様子がみいだされた。この成果は、令和6年2月刊行予定の「人文論究」に掲載予定である。 次に、令和5年度以降に予定していた研究内容のうち、北海道にてハスカップにおける資料収集と現地調査を行った。その結果、ハスカップが第二次世界大戦後に特産品化する中でアイヌの不老長寿の果物という話を作って売り出されたが、近年の栄養分析の発達により本当に栄養価が高いと証明され健康食品化した様子が明らかになった。 さらに、長野県にてクルミに関する資料収集と現地調査も行った。その結果、クルミの古木は上田市真田地区の寺院の境内に栽植されていたことが明らかになった。関連して、柿などほかの果物にも注目し、長野県伊那地方特産の市田柿についても寺院と伊勢御師の邸宅に原木が存在したことから、宗教者の移動ないし寺社参詣を通じて果物が有益な作物として導入された様子がみいだされた。この成果は、令和5年3月刊行の「関西学院史学」に掲載された。 加えて、本研究と関わり実施してきた柑橘の研究についても、和歌山県紀北地方や大阪府泉州地方での資料収集や現地調査を深め、近代移行期に温州蜜柑が不吉と認識された要因や、その後嗜好品として普及した経緯の詳細について新たな知見を得られた。この成果は、令和5年1月刊行の「歴史地理学」に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は当初の予定通り、マルメロに関する資料収集と現地調査を進展できた。加えて、当初予定していた秋田県と長野県だけでなく、青森県における缶詰加工の動向も把握できた。また、北海道のハスカップの事例や、長野県のクルミの事例についても資料収集と現地調査も実施できた。現状では概要の把握にとどまる側面も大きいが、次年度以降の基礎資料の収集が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度以降は、まず、マルメロに関する研究成果をまとめる。次に、当初予定していた品目(マルメロ、フキ、スグリ、ハスカップ、キク、ハボタン、クルミ、アンズなど)のうち、資料収集や現地調査のめどが立ってきたクルミとアンズを優先して、利用方法や価値志向の多様性に関する調査を進める。さらに、上記の品目や、北東北地方ないし中央高地という地域にとどまらず、広域的な資料収集と現地調査を通じて、さまざまな野菜や果実の事例の収集をめざす。その際、社会状況の変化に伴い薬種と嗜好品のゆらぎがみられたマルメロとハスカップのように、近代から現代にかけて野菜や果実に対する価値志向が大きく変化した事例に注目する。なお、柚(嗜好品と酸味料のゆらぎ)、椿(観賞用と製油原料のゆらぎ)なども、新たな研究対象の候補と考えている。
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