2023 Fiscal Year Research-status Report
精神障害者の社会運動の歴史とピアサポート制度に関する研究
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22K13570
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
桐原 尚之 同志社大学, 社会学部, 日本学術振興会特別研究員(PD) (90876103)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 障害学 / ピアサポート / セルフヘルプ / 社会運動 / 精神障害者 / 政策過程 / 社会モデル / 障害者権利条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで不可視にされてきた精神障害者の社会運動の歴史を明らかにすることを目的とする。2023年度は、ピアサポート制度化の歴史を調査し記述した。 武田牧子は、厚生労働省において専門官を務め、ピアサポート制度化に向けた下地を作ってきた人物の一人である。武田は、精神科病院に検査技師として勤務していたときに、入院患者から「働く場所が欲しい」といわれた。病院を退職して共同作業所桑友を立ち上げ、次第にマディソンモデル――ユーザーがサービス提供するモデル――に影響を受けて就労の場としてピアサポート制度化を目指すようになっていった。 2011年、武田の依頼で宇田川健は、ウィスコンシン州の「ピアスペシャリストマニュアル」を邦訳した。その後、日本国内で実施可能なように「精神障がい者ピアサポート専門員養成のためのテキストガイド」が作成された。2013年同テキストガイドを活用した「ピアサポート専門員養成研修」が実施された。同テキストガイドは、同テキストガイド編集委員会によって3回にわたる改定作業がおこなわれた。2015年には、一般社団法人障がい者福祉支援人材育成研究会が独立行政法人福祉医療機構から助成金(平成26年度社会福祉振興助成事業「精神障がい者ピアサポート専門員養成研修事業」)を受けて、テキストガイド第三版のとりまとめ作業がおこなわれた。2015年9月3日、厚生労働省と同テキストガイド第三版の編集に携わったメンバーで「精神保健福祉に関する勉強会」が実施された。同学習会を受けて厚生労働省は、障害保健福祉推進事業(厚生労働科学研究)「障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修に関する研究」を実施し、制度化の足掛かりとなっていった。 以上、上述のような経緯で「事業所に障害者を雇用する」という意味でのピアサポートが構築されてきたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、聴き取り調査にかかわる研究協力者との調整に時間を要したため遅延が生じている。調査自体は、おおむね終了しているが、全体的にとりまとめや分析作業に遅延が出てしまったため、2024年度中に成果を取りまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
第210回臨時国会では、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議として「多様なピアサポーターの活動の価値や専門性を分かりやすく伝える観点も踏まえつつ、障害者ピアサポート研修事業の研修カリキュラムの見直しを検討すること。」が決議された。このような政策的な流れと相まって関心の高いテーマである。 2024年度は、2023年度に実施した調査結果を用いて、精神障害者の社会運動の歴史を踏襲したピアサポートのパースペクティブを示していく予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、聴き取り調査にかかわる研究協力者との調整に時間を要したため、次年度使用額292,643円が生じた。2024年度は、久留米市において聞き取り調査を実施し、これにて計画にかかわる調査が完了できる見込みである。とりまとめや分析作業をおこない、2024年度中に成果を取りまとめる予定である。
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