2022 Fiscal Year Research-status Report
中性子星-ブラックホール合体の量子シミュレーション実現に向けた冷却原子理論研究
Project/Area Number |
22K13981
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田島 裕之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80804278)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
Keywords | 冷却原子気体 / 中性子星 / ブラックホール / 輸送現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
強い引力相互作用をもつ冷却フェルミ原子気体の輸送現象に焦点を当てて理論研究を進めた。特に、近年冷却原子気体で実現されている2端子間トンネル輸送について、従来の1粒子トンネル過程では説明できないような大きなトンネルカレントの原因を明らかにすべく、強い引力相互作用によるペア形成の役割を探った。トンネルバリアに対応する1体ポテンシャル中の原子気体のハミルトニアンから2端子系のバルクハミルトニアンとトンネルハミルトニアンを構成すると、従来の1粒子トンネル過程に加えて、粒子間相互作用に起因したペア/スピントンネル過程が現れることを示した。 さらに、ペアトンネル過程による輸送キャリアを決定する方法として、トンネルカレントと非平衡ノイズの比で与えられるファノ因子の測定を理論的に提案した。1粒子トンネル過程が支配的であればファノ因子は「1」、ペアトンネル過程が支配的であれば「2」となる。マクロな観測量であるファノ因子から輸送キャリアの正体を決定できることを意味する。実際に、多体T行列理論およびShwinger-Keldysh Green関数法を用いて、BCS-BECクロスオーバー領域における超流動相転移温度以上の冷却フェルミ原子気体のファノ因子を計算すると、引力相互作用が強くなるにつれてファノ因子が1から2へ変化することがわかった。特に、強結合BEC側では、分子ボソンのトンネリング過程を記述する。 さらに、超伝導/常伝導界面のAndreev反射とブラックホールのHawking輻射のアナロジーが先行研究で指摘されていたのに対し、実際にその輸送現象を冷却原子気体で実現できることを議論した。 ペアトンネリング過程の存在は、ボース粒子系で議論されているトンネル輸送現象に類似したものが強相関フェルミ気体にも現れることを示唆しており、今後の発展が期待できる成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度からユニタリーフェルミ気体のような引力相互作用が非常に強い系ならではの相互作用に起因した多体トンネル過程が現れることを示すことができたことは、今後の発展において重要な成果といえる。こういった多体トンネル過程を実験で観測する方法も提案しており、今後の発展が期待できる研究内容といえる。さらに、Andreev反射とHawking輻射による量子情報反射をシミュレートする系として、冷却原子気体の人工次元をヒントにRF遷移を利用した原子の超微細構造状態に関する内部空間の超流動/常流動接合系を提案し、通常の空間的な接合系では見られないAndreev反射がこの系で起きることを示した点は、当初の研究計画では想定していなかったユニークな研究成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、強く相互作用する冷却フェルミ原子気体において多体トンネル過程の影響をより詳細に調べる予定である。多体トンネル過程の導出は、2成分フェルミ原子気体のみならず、ボース原子気体やボースフェルミ混合系、さらには原子核の多核子輸送にも適用できる汎用性の高い手法であり、中性子星内部のさまざまな相における輸送現象の理解にもつなげられる可能性を秘めている。冷却原子気体系における具体的なセットアップの元での輸送現象を解析することで、アナログ量子シミュレーションの観点から中性子星-ブラックホール連星において想定される輸送現象を探る。
|
Research Products
(33 results)