2023 Fiscal Year Research-status Report
微量元素徐放性リン酸カルシウム担体によるメタン生成菌の選択的凝集
Project/Area Number |
22K18059
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
梅津 将喜 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (30891387)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | メタン生成菌 / 金属元素担持 / リン酸カルシウム / 微量金属 / 微生物付着 |
Outline of Annual Research Achievements |
メタン発酵は、酸素の無い嫌気条件下で代謝を行う嫌気性微生物によって排水や廃棄物に含まれる有機物を分解し、メタンガスに変換する技術である。メタン生成菌はメタン発酵プロセスの最終段階を担う重要な微生物である一方で、他のバクテリアと比べて増殖速度が遅いことから、メタン生成菌を高濃度に集積しメタン生成代謝を促進することが求められる。本研究では、メタン生成菌がメタン生成代謝経路の中で遷移金属元素を含む酵素を利用していることに着目し、微量元素を徐放するリン酸カルシウム担体を作製することで、遷移金属要求性の高いメタン生成菌を担体上で選択的に集積することを目指している。 申請者は水酸アパタイト(HAp)粉末と炭酸ニッケルを混合し、焼結によって緻密体を形成することでニッケルイオンを徐放するニッケル含有HAp担体を作製した。ニッケルを除いたメタン生成菌用培地にニッケル含有HAp担体を添加し、メタン生成菌の純粋株を培養した時の影響を評価した。その結果、ニッケルを含まないHApのみの担体と比べてニッケル含有HAp担体上ではメタン生成菌が凝集している様子が観察されたが、菌液中に浮遊するメタン生成菌と比べるとその菌数は少なかった。また、ニッケルを添加していない培養系においてもメタンの生成が起きていたことから、完全なニッケル欠乏状態を作ることができていなかった。今後は各メタン生成菌におけるニッケル要求量をより厳密に調査するとともに、雑多な嫌気性微生物群集に対してニッケル含有HAp担体を添加することで、メタン生成菌を含む微生物の集積やメタン生成の促進を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの研究により、水酸アパタイト(HAp)粉末に炭酸ニッケルを混合し、圧縮成形の後1200℃で2時間の焼結をすることで、ニッケルイオンを徐放するニッケル含有HAp担体の作製に成功している。ニッケルを除いた培養培地に水素資化性メタン生成菌(Methanothermobacter thermautotrophicus)および酢酸資化性メタン生成菌(Methanosaeta concilii)をそれぞれ接種し、ニッケル含有HAp担体を添加した時の影響を評価した。その結果、ニッケルを含まない純粋なHAp担体と比べて、ニッケル含有HAp担体上ではメタン生成菌が凝集している様子が観察されたが、菌液中に浮遊するメタン生成菌と比べるとその菌数は非常に少なかった。またニッケルを添加していない培養系においてもメタンの生成が起きており、HApへのニッケル担持がメタン生成菌の集積や代謝促進に与える効果を明確にすることができなかった。これは種菌からの微量なニッケルの持ち越しが原因である可能性があることから、次年度はメタン生成菌に必要なニッケル濃度をより詳細に調査するとともに、長期的な培養を行うことで完全なニッケル欠乏条件を構築する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今回行った培養実験は、培養培地の量が少なく培養期間が短かったこともあり、接種したメタン生成菌由来と思われる微量なニッケルの影響を排除することができず、ニッケル担持HApの効果を正確に評価することができていなかった。また既往の研究を見ても、メタン生成菌に対するメタン生成促進または毒性を示すニッケル濃度については意見が分かれていることから、今後はメタン生成菌に対する最適なニッケルイオンの放出量をより詳細に調査する必要がある。 また実際のメタン発酵槽では、メタン生成菌は他の有機物分解バクテリアと凝集し共生関係を構築することが知られていることから、雑多な嫌気性微生物叢に対しニッケル担持HApを添加することでメタン菌を含む微生物の付着量や、有機物からメタンへの変換効率への影響を評価する予定である。
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