2023 Fiscal Year Research-status Report
Development Econometrics Rooted in Historical and Cultural Factors
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22K18534
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山田 浩之 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (40621751)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 開発経済学 / 文化 / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は以下の取り組みを行った。 第1に、ベトナムで1075年から1919年まで実に800年以上の間にわたって儒学をメインに据えて実施されていた全国官僚登用試験の影響が持続しそこから男児重視の風習が生まれ、果たして男女間に教育や経済活動の格差が見られるのかの実証研究を行った。その結果、儒教は男女不平等に対して、考慮されたすべての側面において長期にわたって負の影響を与えることがわかった。しかし、この結果は、現代の女性がより多くの学校教育を受ける場合、男性よりも良い成績を収める傾向があることも示唆された。この論文はJournal of Economic Inequalityに掲載された。 第2に、カンボジアの3回(1998年、2008年、2019年)の国勢調査を用いて、出生順序が教育水準に与える影響の、大きな社会的・経済的変化に伴う中での、時系列的変化の研究を行った。カンボジアはポルポト政権下の悲劇から復興を遂げ、急速な社会経済の構造変化が生じたため、家庭内の資源配分に関しても大きな変化があったことが推察される。この文脈で、果たして出生順序によって教育水準がどのように異なるかを3回の国勢調査を用いて時系列的に分析した。分析の結果、4つの知見を得た。第1に、遅く生まれた子供の方が小学校への入学や識字能力の獲得が難しく、最終的な就学年数も短い。第2に、教育における男女差をコントロールすると、出生順位効果は女子の方が小さい。第三に、兄弟姉妹の男女構成と出生順位効果には強い関係がある。最後に、こうした出生順位効果が近年になるほど減衰している。この論文はJournal of Development Studiesへ掲載が決まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度及び2023年度の両年共に、国際的学術誌に掲載されたあるいは掲載が決まった論文が出ていることから、順調に進展していると考えている。 他の研究テーマに関してもデータ整備・構築がおおむね順調に進捗している。具体的には、ベトナム・カンボジア両国の国勢調査を用いた比較を行うべく、質問項目の比較や、質問内容の類似性のチェックを慎重に行っている。異なった国の国勢調査を結び付けて研究に用いることは珍しく、この点は新規性の一端であると言える。 また、カンボジアの国勢調査、経済センサス、Village Commune Databaseを用いた研究に着手しつつあり、こちらもデータクリーニングの段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では引き続き地道に歴史的・文化的な背景を丹念に調べると同時に、利用可能なデータの整備を進めて実証分析を行い、論文執筆に繋げていく予定である。 具体的には以下のような方向性を予定している。 第1に、隣り合うベトナム・カンボジアが大きく異なる文化的背景を有していることに着目した研究案である。ベトナムは儒教を背景とした「父系社会」であるのに対し、カンボジアは儒教の影響がそれほど強くなくどちらかと言えば伝統的に「母系社会」色が強いことが知られている。この文化的背景は、産まれてくる子供の性別を重視する傾向に影響を与えるのだろうかという仮説を、両国の国勢調査データを用い、かつベトナムが過去にカンボジアの領土であった地域を併合していったという史実を援用する予定である。 第2に地方道路建設が地方の経済に及ぼす影響である。地方道路網が改善すると二つの逆方向の影響が考えられる。一つはその地方の経済活動が活性化されるという影響である。その一方、地方道路の整備は国内移住を促し人が流出し、その地域経済に必ずしもプラスの影響を与えないかもしれない。その結果慣習といったものに影響を及ぼす可能性が考えられる。このトピックをカンボジアの詳細な村レベルのデータを用いて検証する予定である。
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Causes of Carryover |
研究開始年度はコロナの影響で海外出張もままならず、非常に限られた研究活動となった。その分の繰越金が次年度使用額が生じた大きな理由である。 しかし、コロナの影響も下火になったことから海外出張も再開できるようになり、直接現地に出向いての資料収集やデータの購入も可能になっている。また可能であれば、価値観や慣習などの現地調査も実施したいと考えている。このような計画を考慮に入れると、現在拠出可能な当該助成金は妥当な額であり、着実な研究の遂行に心がけることとする。
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