2023 Fiscal Year Research-status Report
潜在連合テストを利用した社会調査手法の新展開ー社会階層関連意識の測定モデルの開発
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22K18568
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
与謝野 有紀 関西大学, 社会学部, 教授 (00230673)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 直保子 関西大学, 社会学部, 教授 (00302654)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 潜在連合テスト / 社会調査 / 音声版潜在連合テスト / 社会意識の測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
主に以下の2点を実施した。 1)テスト測度の数理的特性の解明と新たな定式化:本研究で開発を行っている社会調査向け潜在連合テストは、音声を用いる形式であり、集合調査に適した手法となっている。この手法は試筆版潜在連合テストにおける集中度の統制に改良を加えたものである。そのため、音声を用いる新版の潜在連合テストにおいて、潜在連合の強さの測定は試筆版潜在連合テストにおける測度が援用される。試筆版潜在連合テストにおける既存研究では、少なくとも5つの異なる測度が用いられてきているがこれらの数理的特性の検討は極めて少ない。特に、個人間の反応速度の差異を調整するための数学的定式化は、測度の妥当性に大きな重要性をもつが、その理論的検討はこれまでほとんどなされてこなかった。そのため、本研究が企図する新たな潜在連合テストの実施に先立って、いずれの測度を用いるべきかの検討が必須となっている、この点に関して、多数の数値実験を行いながら、これまで利用されてきた複数の測度の特性を検討し、より揺らぎが少なく、かつ強連合ー弱連合間の差異を敏感に検出できるような新たな測度の定式化を行った。 2)潜在連合テストに適用できる意識項目の類型化:本研究では、これまでリッカート式尺度などで測定されてきた社会意識項目に関して、潜在連合テストの適用を新規に試みるものである。しかしながら、本研究を通じて、潜在連合テストの特性から、既存のすべての社会意識項目に対して、潜在連合テストを適用することが困難であることが分かってきた。そのため、既存研究で利用されてきた多数の社会意識項目を潜在連合テストの適用可能性に従ってカテゴリー化することを試みた。この結果、階層帰属意識のように、自己の位置を同定する質問項目に対しては、同一対象者への複数回の潜在連合テストの実施が必須である可能性が高く、現実的に実施困難であることなどが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記載した通り、社会調査に適用可能な潜在連語テストの開発とその実施のためには、測度の性質の解明、適用できる社会意識項目の整理といった理論的研究が必須である。前者の測度の性質の解明には、コンピュータを援用した多数の数値実験が必要であり、この数値実験をPythonを用いたプログラム作成によって実施した。この数値実験の具体的な実施において、想定以上に複雑なパターン設定を必要とすることが明らかになり、そのプログラミングにおける対応と数値実験の具体的実施に当初予定以上の時間を要したことが、遅延の最も大きな理由である。 また、次年度において、回答を自動コーディングする必要性があることも研究の実施中に新たに明確化したため、紙にチェックされた回答をスキャンし、それを自動的にPythonを用いて数値化するプログラムの検討にも時間を要した。 さらに、既存の社会意識調査研究で用いられてきた意識項目の数は極めて多く、潜在連合テストの適用可能性の検討のために、これらを大きくカテゴライズするといったレビュー作業にも想定以上の時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究実績に基づき以下の5段階で研究を推進する。 1)潜在連合テストの学生サンプルによる試験実施:150程度の学生サンプルを対象に、これまで潜在連合テストが適用されていない社会意識項目対して潜在連合テストの実施を行う。この試験実施は、次年度のできるだけ早い時期に終了できるように準備する。また、本研究で新たに定式化された強連合―弱連合の差を敏感に検出できる測度を用いて、顕在指標と新たなテスト測度の相関関係をパイロットスタディ的に検討する。 2)1)で有用性が確認できた潜在連合テストを選別し、そのテストをインターネット調査で利用できる環境を開発する。PC、タブレット、スマートフォンのそれぞれに対応する実施環境の開発を試み、最終的に、一つの環境開発にしぼりこむ。 3)2)で開発した潜在連合テストの実施環境を用いて、学生サンプルでの試験実施を行い、実施環境の問題点を明らかにし、その改善を行う。 4)3)で改善された潜在連合テストの環境を、一般サンプルでのインターネット調査に適用できるように修正し、インターネット調査を実施する。また、インターネット調査の実施に先立って、外部の専門家と意見交換を継続的に行う。 5)インターネットの実施結果を分析し、これまでのリッカート式尺度などを用いた研究との差異を整理する。
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Causes of Carryover |
潜在連合テストの測度の数理的特性の解明のために研究が遅延し、本年度中に実施を予定していた学生調査の実施が、次年度初頭にずれこむこととなったため次年度使用額が生じた。 次年度のできるだけ早い時期(7月まで)に、学生を対象とした新たな潜在連合テストの実施実験を行い、その実験参加者謝金、実験補助者謝金、データ入力謝金などに用いる。 また、次年度のインターネット調査実施に向けた外部専門家の意見聴取のための専門的知己の供与謝金としても利用する。 さらに、インターネットでの潜在連合テストの実施環境の構築に当たって、一部、業者への委託を行い、その業務委託費として利用する。
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