2022 Fiscal Year Research-status Report
気候変動時代の病害防除を見据えた植物病原細菌研究のパラダイムシフトへの挑戦
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22K19178
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
峯 彰 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80793819)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 高湿度 / 細菌 / 病原性 / 二成分制御系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植物病原細菌Pseudomonas syringaeが高湿度環境で発揮するエフェクターに依存しない病原性発現機構の解明を目的としている。そのために、(研究項目1)植物体内増殖を病原性の指標として、その程度が高湿度環境下で変化するP. syringae変異体をスクリーニングし、(研究項目2)その原因遺伝子によって制御される生理機能を明らかにすることを目指した。 (研究項目1)エフェクターを分泌できないP. syringae変異体の恒常的発光株“hrcC-lux”を独自に作出した。hrcC-luxのTn5トランスポゾン変異体ライブラリを構築し、発光レベルを指標とした定量的スクリーニングにより、高湿度環境下における増殖量が変化する変異体を選抜した。およそ1600変異体のスクリーニングから、35変異体を選抜した。このうちの30変異体については、TAIL-PCR法やinverse PCR法によってTn5トランスポゾンの挿入位置を同定した。 (研究項目2)研究項目1で同定した原因遺伝子の中には、ヌクレオチド代謝、ヘム合成、解糖系やTCA回路に関与する遺伝子が含まれていた。これらの代謝経路に加えて、種々のアミノ酸合成に必要な遺伝子も含まれていた。興味深いことに、これらのアミノ酸合成遺伝子は、高湿度におけるエフェクター非依存的な増殖に必要であったが、それぞれのアミノ酸合成経路の寄与度は異なることが分かった。この結果は、相同組換えにより新たに作成した遺伝子欠損変異体を用いた解析からも裏付けられた。また、同定した原因遺伝子の中には、二成分制御系を構成するレスポンスレギュレーターが含まれていた。遺伝子欠損変異体を用いたさらなる解析から、このレスポンスレギュレーターとそのパートナーとして働くセンサーキナーゼの両者が、高湿度における爆発的な増殖に必要であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、研究項目1の達成を目標としていた。1600変異体をスクリーニングし、高湿度環境下における増殖量が変化する35変異体を選抜した。さらに、そのうちの30変異体に関しては原因遺伝子を同定できた。その結果、高湿度環境におけるhrcC-luxの増殖に関与する代謝経路やシグナル伝達経路を突き止めることができた。同時に、本研究で挑戦したP. syringaeの発光系統を利用した定量的スクリーニング系の有効性も実証できた。高湿度におけるhrcC-luxの増殖に必要な遺伝子群を同定できたことで、高湿度におけるエフェクターに依存しない病原性発現機構の解明に向けた研究基盤は整ったと考える。以上より、本研究は順調に進んでいると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
スクリーニングで同定した遺伝子の機能解析を進める。種々の代謝経路に関与する遺伝子は、感染植物内だけでなく、培地中での増殖にも必要である可能性が高い。そこで、得られた変異体の種々の培地における増殖能を評価していく。また、スクリーニングで同定した二成分制御系や機能未知遺伝子が制御する生理機能を明らかにするために、RNA-seqを用いた変異体と親株の比較トランスクリプトーム解析を行う。具体的には、種々の培地における培養時や高湿度環境下での植物感染時において発現パターンに違いが見られる遺伝子群のGO解析等により、制御下にある生理機能を推定する。さらに、その推定機能に関する生理・生化学的性状解析を通じて、高湿度環境下における病原性発現の仕組みに迫る。
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Causes of Carryover |
スクリーニングで同定した変異体と親株の比較トランスクリプトーム解析を可能であれば本年度も進めていく予定であったが、想定したよりも多くの変異体を取得することができたため、原因遺伝子のバリデーションに時間を要した。結果生じた残額は、次年度に比較トランスクリプトーム解析を行うために使用する予定である。
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Research Products
(7 results)