2023 Fiscal Year Annual Research Report
Medical metaphors in art conservation: studying the image of the conservation profession through discourse analysis
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22K20194
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
大川 柚佳 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (10952070)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 計量テキスト分析 / 言説分析 / 保存修復 / 修復倫理 / 専門職倫理 / 概念メタファー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、認知言語学と社会学の知見を基に、文化財保存修復概念の形成機序を、テキスト分析を通して、医学の影響という観点から考察するものである。そのために、保存修復のテキスト中の医療メタファー、例えば、「保存修復家は医者である」「保存修復センターは病院である」「損傷した作品は患者である」などの用例の効果と役割を分析する。 2年目となる2023年度上半期には、初年度に収集したテキストデータ(ICOM-CCの理論・歴史・倫理ワーキンググループの英語論文120本、1975~2021年)に対して、KH Coderを用いた計量テキスト分析を行った。結果、データ中に見られる医療メタファーの出現傾向が明らかになった。本結果をICOM-CC第30回大会(スペイン)にてポスター発表した。 下半期には、上記定量分析で把握した各メタファーについて言説分析を実施した。結果、「修復対象は人間である」、「保存修復師は医者である」というメタファーが、医師が患者に対して善良な行為者であることと同様に、保存修復家を、対象物をケアする善良な行為者として描出することが明らかとなった。ただし一方で、保存修復の一連のプロセスにおける利害関係者の関与やコミュニティの自律性を説明する上では、医療メタファーに限界があることも示された。保存修復のコミュニケーションをより豊かにするためには、医療概念の拡張に鑑み、医療メタファーの使用拡大を提案した。今後の展望として、医療にとどまらない様々なメタファーの使用頻度の把握や、メタファーの文化特有な特徴や年代変化を明らかにする研究が求められる。修復の言語に着目した本研究は、多様な人々の参画、つまり言語コミュニケーションが重要な位置を占める保存修復プロジェクトへ視座を与えうる。本研究結果はJournal of the Institue of Conservationに投稿した(審査中)。
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