2021 Fiscal Year Annual Research Report
フルタイム就労女性の高齢化に伴う諸問題とその規定要因に関する社会心理学的研究
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21J40097
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
竹内 真純 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 高齢期 / 女性の就労 / フルタイム就労 / エイジズム |
Outline of Annual Research Achievements |
第1に、研究1として、フルタイム就労をしていた女性の高齢期の実態把握を目的に、大規模データの二次分析を行った。具体的には、東京都健康長寿医療センター研究所と東京大学が2006年に実施した「全国高齢者パネル調査(wave7)」を分析し、フルタイム就労をしていた女性・専業主婦だった女性・男性の高齢期の間で、高齢期の健康状態、主観的幸福感、社会関係、経済状態を比較した。その結果、男性は女性より身体機能、配偶者への満足度、世帯収入が高く、対人的な交流頻度が少ないこと、専業主婦の女性は日常的な手助けや寝たきりになった時の世話を頼める相手がいない人が多いことが明らかになった。 第2に、研究2として、女性の就労形態による老年期の違いをより明確するため、60-74歳の、最長職がフルタイム就労だった女性・パートタイム就労だった女性・専業主婦だった女性、男性、各200人を対象としたインターネット調査を行った。その結果、フルタイム女性群は主婦群やパート女性群と比べポジティブ感情を多く経験し、主観年齢が若く、生活満足度が高いことが示された。この結果は2022年度の老年社会科学会で発表する予定である。なお、この調査に先立ち、複数の高齢女性を対象とした聞き取り調査を行った。 第3に、研究3として、研究1と同様「全国高齢者パネル調査」のwave4(1996年)~wave7(2006年)を分析し、wave4からwave7の間で退職をした女性149人、男性189人について、退職前後での生活の変化を比較した。その結果、男性は退職後に友人数や友人との交流頻度が減少し、生活満足度が悪化するのに対し、女性ではそのような変化が見られないことが明らかになった。 研究1、研究3のデータは、いずれも東京大学社会科学研究所SSJデータアーカイブに申請し、入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、第1に、大規模データの二次分析によってフルタイム就労だった女性の特徴を明らかにすること、第2に、縦断調査データの二次分析によって、男性と女性の退職後の変化の違いを明らかにすること、第3に、インターネット調査を実施してエイジズム被害を受けた経験が高齢期の適応に与える影響を検討することを計画していた。研究の結果、第1、第2の目的については計画通りに研究を遂行でき、第3の目的については調査の実施までを行った。 まず、大規模調査の二次分析により、フルタイム就労をしていた女性・専業主婦だった女性・男性の間で、高齢期の身体的健康や主観的幸福感等を比較した(研究1)。その結果、女性の就労経験による大きな違いは見られず、主に男性と女性の間の違いが明らかになった。これは、就労形態よりも性差による違いが大きいことを示唆する結果であるが、既存データの二次分析であるため、主観的well-beingの変数が限られていた点、過去の就労形態(就労時間等)が明確ではなく、パートタイム就労の女性を分析に含められなかった点が問題であった。 そのため、60-74歳の、最長職がフルタイム就労だった女性、パートタイム就労だった女性、専業主婦だった女性、男性、の4群のサンプルを用いたインターネット調査を実施した(研究2)。分析の結果、フルタイム女性の主観的well-beingが良好であることが明らかになった。 この調査では、エイジズムの被害にあった経験の有無についても質問に含めたが、分析には至らなかった。 第3に、大規模縦断調査の二次分析を行い、男女別に、退職による主観的well-beingや社会関係の変化を調べた(研究3)。その結果、男性では退職によって主観的well-beingの悪化や社会関係の喪失が見られるのに対し、女性では見られないことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、本年度に行ったインターネット調査の分析をさらに進め、エイジズムの被害にあった経験が高齢期の主観的幸福感に与える影響を検討する。本年度に行った調査では、回答者に、年齢が高いことを理由とする不快な経験をしたことがあるかをたずねていた。それらの年齢差別にあった経験の多寡が男女および就労経験によって異なるか、高齢期の主観的幸福感にどのような影響を与えるかを検討する。 第2に、女性の就労経験とインターネットの使用状況および主観的幸福感の関係について検討する。本年度に行った文献研究から、高齢女性の就労経験とデジタルデバイドの関係が予測された。先行研究では、インターネットの使用が高齢者の主観的幸福感を高めることが示されており、女性の就労経験が高齢期のインターネット使用経験を通して主観的幸福感に影響を与えることが予測できる。本年度に行ったインターネット調査は、回答者のインターネット使用状況についての質問を含んでおり、今後はこれらの調査項目についても分析を進める。 第3に、インタビュー調査を行い、フルタイム就労女性の実態把握と、中年期の生活との関連を検討する。具体的には、フルタイム就労していた65歳以上の女性を対象としたインタビュー調査を行い、高齢期を迎えるにあたって生じた問題、および、中年期の生活パターンがどのように高齢期に影響しているかを検討する予定である。 第4に、以上の研究結果に基づき、中年期の就労経験が高齢期に与える影響を検討するためのインターネット調査を実施する。調査対象者は50-69歳の、最長職がフルタイム就労の女性、パートタイム就労の女性、専業主婦の女性、男性、の4群のサンプルを予定している。中年期の就労時間、就労を通して得た経験、社会関係、インターネットの使用経験等を質問し、それが高齢期の主観的幸福感に与える影響を検討する。
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