2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23000003
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永江 知文 京都大学, 理学研究科, 教授 (50198298)
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Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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Keywords | マルチ・ストレンジネス / J-PARC / ハイパー核 / 実験核物理 |
Research Abstract |
製作を進めている磁気スペクトロメーターS-2Sは、3台の大型電磁石から成る。このうち運動量分解能に重要となる偏向電磁石1台の鉄芯部分を本年度製作した。また、収束用電磁石の2台目Q2の製作も別経費により行った。前年度に完成した1台目の収束電磁石Q1については。磁場測定とその解析を今年度実施した。Q1は標的直後に設置され、散乱粒子を縦方向に収束させる働きをし、その強い磁場勾配により大立体角を実現する。磁場測定より、8.7T/mという想定していた十分な磁場強度が達成されていることを確認することができた。また、磁場分布の対称性も良いことを確認した。また、運動量解析の方法を検討するため、3次元磁場解析ソフトTOSCAを用いた磁場計算を行った。これが測定値をよく再現すれば、計算磁場分布を用いて運動量解析ができる。計算の結果、0.002Tの精度で測定結果と一致させることができた。励磁曲線と磁場分布の両方で良い一致が得られた。これらを踏まえて、運動量分解能への影響をシミュレーションによって求めた所、磁場分布の誤差の運動量分解能への寄与は10-5程度であり、目標としているdp/p<5×10-4に対して十分小さいことが判明した。 S-2Sのトリガー及び粒子識別検出器系は、散乱粒子の飛行時間を測定するTOF検出器、K+事象を選別するエアロジェルチェレンコフ検出器(AC)、水チェレンコフ検出器(WC)で構成される。AC検出器は既存のものを利用する予定である。今年度は、TOF検出器の設計と部品の購入、及び、WC検出器の試作機を製作して性能評価を行った。WC検出器は、陽子によるバックグラウンドトリガーを十分の一以下に抑制するための検出器である。試作機を製作して、J-PARCのビームを用いた実験と、宇宙線を用いた実験を行って性能を評価した。観測されるチェレンコフ光の量、すなわち光電子数について(1)入射速度依存性、(2)入射位置・角度依存性、(3)波長変換剤を純水に溶かすことによる光電子数の増加、(4)反射材による違いについて調べた。その結果、入射位置・角度依存性については、高々5%のばらつきしかなく、純水のみでも目標とする陽子棄却率を達成できるという見通しを得ることができた。これに基づく実機の設計を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研費により製作を進めている磁気スペクトロメーターS-2Sは、前年度に、一台目の収束電磁石が完成し、本年度に磁場分布測定結果等の解析を行い、所期の性能を持っていることが確認できた。また、大型の偏向電磁石1台についても鉄芯部分の製作を予定通りに行った。別経費により製作を進めている2台目の収束電磁石も本年度完成した。このようにスペクトロメーター系の電磁石の製作は、ほぼ順調にスケジュール通りに進んでいる。検出器系の製作も予定通りに進行しており、本年度は水チェレンコフ検出器のプロトタイプによるビーム性能試験を行い、充分な性能が出せることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には、偏向電磁石D1のコイルを製作し、鉄芯部分と組み合わせて電磁石を完成させる。また、S-2Sを構成する3台の電磁石の設置用架台も設計・製作を行う。これにより、磁気スペクトロメーターを構成する電磁石系が完成することとなる。これらの電磁石の励磁試験等は、当面、高エネルギー加速器研究機構の北カウンター実験室において行う予定である。収束電磁石に対して行ったのと同様に、磁場分布を対称面内で測定し、これを計算磁場で再現することにより、全空間での磁場分布をえることを目指す。また、各電磁石のヒステリシスを含む励磁特性や磁場の安定性などについても試験を行う。 検出器系については、飛行時間測定検出器については組立を行い、性能試験を実施する。水チェレンコフ検出器についても試作機2号機による最終性能確認の後に、実機の最終設計を終わらせて、実機の製作を行う。飛跡検出器系についても、既存の検出器を再利用することで実機となるべき検出器を平成27年度に製作する。 当初予定していたスケジュールでは、平成27年度終わり頃には、S-2SのJ-PARC K1.8ビームラインへの設置を予定していたが、平成25年5月に発生したハドロンホール実験室での放射線漏えい事故対策のための工事の影響で、ハドロンホール全体のビームタイムスケジュールが1年半以上遅れている。これによりS-2Sの設置時期も遅れる見込みである。電磁石と測定器系の事前準備をしっかりとしておくことにより、できるだく現場設置にかかる時間を短縮する等の対策を講じて、遅れを最小限に留める努力を行いたい。
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