2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23000003
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永江 知文 京都大学, 理学研究科, 教授 (50198298)
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Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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Keywords | マルチ・ストレンジネス / J-PARC / ハイパー核 / 実験核物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. “S-2S”磁気スペクトロメーターの電磁石系の建設と性能評価 S-2Sスペクトロメーターは、収束用の四重極電磁石2台(Q1, Q2)と偏向用の双極型電磁石1台(D1)から構成される。平27年度始めには最後のD1電磁石の製作が完了する予定である。Q1, Q2の測定した磁場分布について、計算により0.1%レベルでの再現性を目指して磁場解析を進めている。また、これらの磁場分布をもとに磁気光学系のシミュレーションを実施し、実験標的の位置やビーム運動量に対する光学系の最適化を行った。 2. 測定器系の開発・設計と製作 飛跡検出器系については、新たに製作が必要な2面目の検出器の設計と製作を行った。有感領域は、横15cm、縦30cmとし、ドリフト距離2.5mmのワイヤーチェンバーを製作することとした。平成26年度末に製作終了し、調整・試験を開始した。粒子識別は、飛行時間測定法により行う。横119cm、縦60cmの面積を覆うプラスティック・シンチレーション検出器を製作した。粒子トリガー弁別系のなかで、陽子を抑制するための水チェレンコフ検出器の開発を進めてきている。紫外光透過率の高いアクリル樹脂の窓と高量子効率の光電面を採用することにより、目標としていた陽子のトリガー除去率90%以上を達成できることが判明した。これらの結果をもとに最終設計を行い、実機の製作を開始した。 3. 既存装置によるパイロットランの検討 現在ハドロン実験施設において稼働している磁気スペクトロメーターSKSは、適度な運動量分解能を備えながら110msrという大きな立体角を持つ世界的にユニークな測定装置である。我々は、30kWという加速器からの陽子ビーム出力が得られれば、このSKSの大立体角を利用することにより、CH2(K-, K+)反応の測定が可能であることを示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の推進のために不可欠な"S-2S"と呼ぶ新しい磁気スペクトロメーターの建設は、順調に進んできている。3台の大型電磁石は平成27年度当初に全て完成する。新しい測定器系についても、スペクトロメーター入り口部分の飛跡検出器一式が製作完了し、出口部分の粒子識別用の飛行時間測定器系もほぼ完成した。粒子トリガー用の水チェレンコフ検出器についても開発が完了し、最終版の実機の製作に入ったところである。ほぼ当初計画から大きな遅れなく進んできているといえる。磁場解析やシミュレーションも進んでいる。 しかし、計画当初で予定していた、平成26年度中に磁気スペクトロメーターと測定器系をJ-PARCハドロン実験施設に据え付けて、ビームを使った調整を開始することは、平成25年5月に起こったハドロン実験施設における放射線漏えい事故の影響で遅れることとなった。この事故に関しては、その発生原因の究明に加えて再発防止のための対策を決定するために多大な時間を要し、本研究のスケジュールをどうすべきか方針が立たない日々が長く続いた。様々な安全対策の方針が認められ、それに従った施設の改修工事が開始されてからも、ビーム利用の開始がどうなるかがはっきりしない状態であった。やっと平成27年4月に入ってから、ハドロン実験施設へのビーム取りだしが再開されたところである。この間、2年近くにわたってハドロン実験施設のビーム利用スケジュール全体に遅れが生じており、本研究のためのビーム利用スケジュールもその影響を受けている。
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Strategy for Future Research Activity |
S-2Sスペクトロメーターの建設は、まずその完成を目指す。平成27年春には偏向電磁石の磁場測定を完了させ、その磁場解析を平成27年夏頃までに終了する。水チェレンコフ検出器の実機製作は、昨年度製作した1モジュールで最終確認を行った後に、残りのモジュールの製作を平成27年夏頃までに完了させる。これにより、平成27年度中には、測定器を含めた磁気スペクトロメーターを据付可能な状態にまですることができる。これと並行して、これまで行ってきた個別の電磁石の磁場解析を組み合わせて、3台全体での磁場分布がどうなるかについての検討を進める。お互いの磁場の干渉について調べ、これと運動量分解能との関係を調べたいと考えている。 平成27年の秋には、昨年度検討して提案したCH2(K-, K+)反応のパイロット実験を是非実現したいと考えている。この測定は、約110msrという大立体角(S-2Sの約2倍)をもつ既存のSKSスペクトロメーターと10g/cm2厚のポリエチレン標的を組み合わせることにより、エネルギー分解能的には5MeV(S-2Sでは2 MeV以下)という分解能で、E粒子生成の素過程断面積を高精度で測定すると共に、Ξハイパー核生成の予備データも取得するものである。素過程のK-p→K+Ξ-反応の前方断面積の入射運動量依存性は、これまで、泡箱を使った統計精度の悪い実験データしか存在しない。本測定では、これらを2桁上回る統計精度で測定できると考えている。この実験データは、Ξハイパー核生成の収量の最適条件を探る上で重要であるとともに、Ξハイパー核励起スペクトルの理論計算の基礎となるものである。また、ビーム利用時間が2週間程度確保できれば、Ξハイパー核の生成事象の観測も十分期待できるので、これに成功すればΞハイパー核ポテンシャルの深さに関する情報を引き出すことが可能となる。最近になって原子核乾板データの再解析により、Ξハイパー核事象と見られる事象が報告された。その束縛エネルギーに関しては、事象の解釈の不定性により数MeVの不定性が残っている。本測定により1MeV程度の精度で束縛エネルギーを決定できれば、その意義は大きい。測定に当たっては、バックグラウンドとなる高運動量の陽子の抑制が重要な鍵となる。これまでに原子核反応のシミュレーションによる検討を行い、大丈夫であることを確認しているが、実際のビーム条件下でどうなるかをこの春に実測する予定である。 S-2Sを利用した本格的な(K-, K+)反応分光の実験は、現在のJ-PARCのビーム利用スケジュールでは、早くて平成29年度になる見通しである。それまでにS-2Sの試験・調整をできるだけ準備し、一日でも早く測定にはいれるように努力したい。実際のビーム利用期間は1ヶ月程度を予定している。
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