2013 Fiscal Year Annual Research Report
低強度運動が認知機能を増強する分子基盤の解明:新たな運動処方の開発を目指して
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23240091
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
征矢 英昭 筑波大学, 体育系, 教授 (50221346)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川戸 佳 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50169736)
劉 宇 帆 筑波大学, 体育系, 研究員 (90599680)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 海馬 / 低強度運動 / 乳酸性作業閾値 / マイクロアレイ / IPA解析 / 脂質代謝 / タンパク質合成 |
Research Abstract |
運動は筋同様に脳の可塑性を高め、記憶や認知機能を向上させる。これまでに、記憶や学習を司る海馬の神経新生やその機能はストレス伴わないLT(乳酸性作業閾値)未満の低強度運動(ME)でも十分に高まることを明らかにした。さらに、その促進因子として、海馬で合成されるニューロステロイドやアストロサイトから分泌されるWnt3の関与を報告している。しかし、その分子機構は複雑で決定的な機構解明には至っていない。そこで本年度は、低強度運動による海馬機能の向上に関わる分子基盤の網羅的な探索を行った。実験はこれまでと同様にWistar系雄性ラットを用い、安静群、ME群、高強度運動(IE)群の3群に分けた。6週間のトレッドミル走運動を行わせた後、海馬を摘出、解析を行った。分子基盤の探索には遺伝子発現の網羅的解析が可能なマイクロアレイを用い、その情報を基にIngenuity Pathways Analysis(IPA)によって各運動条件で変化がみられた遺伝子ネットワークの推定を行った。その結果、MEでは604個、IEでは415個の遺伝子に変化がみられ、両強度で共に変化がみられた遺伝子はわずか44個であった。これらの遺伝子の中に、脳由来神経栄養因子やインスリン様成長因子といった、運動に伴う海馬の機能向上に関与することが過去に報告されている遺伝子は含まれなかった。またIPAにより、MEでは特に脂質代謝(Apoe, Cd36)やタンパク質合成(Igf2, Irs1)に関わる遺伝子群に変化がみられることが明らかになった(p < 0.05)。これらの結果は過去に想定されていた機構とは異なり、脂質代謝やタンパク質合成がME特異的な機構として海馬機能の向上に寄与していることを示唆する。また、先行研究ではアルツハイマー病(AD)の一因として脂質代謝の異常が想定されており、本研究の知見はMEのADの予防や改善効果を期待させる。今後は、ADなどの神経変性疾患に対するME効果の検証が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、運動で高まる海馬機能の新たな分子機構の解明に向けた基盤情報を得るとともに、ADなどの神経変性疾患に対するME効果の検証といった新たな研究に繋がる結果を得ることができた。これらの研究成果は既に投稿中であり、計画通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果(平成23~25年度)より、ストレスを伴わない低強度運動は海馬機能を高め、さらにアルツハイマー病の予防や改善効果も期待できることが示唆された。今後は、低強度運動の効果についてアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患モデル動物を用いて検証する必要がある。しかしながら、これら遺伝子改変動物の多くはマウスであり、まずマウスの運動強度を確認しなければならない。ラットでは走行中の乳酸性作業閾値(LT)を決定し、LTを境にしたストレス反応を伴う高強度と伴わない低強度運動の区別に成功している(Soyaら,2007)が、マウスは血液量が少ないため連続的な採血が困難である。その対応策として、非侵襲的な換気ガス分析から決定される換気性作業閾値(VT)が有望である。今後は、呼気ガス分析が可能な代謝チャンバーを用い、マウスの運動モデル確立を目指す。また、低強度運動が海馬の神経新生を高める分子機構について詳細な検討をするため、海馬の神経幹細胞培養系を立ち上げ、幹細胞から神経に分化するプロセスに対するニューロステロイド(アンドロゲンを含む)の効果について検証する予定である。
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Research Products
(47 results)