2012 Fiscal Year Annual Research Report
アジア採集狩猟民児童~大都市児童の発育発達多様性と環境の相互作用、含む標準値作製
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23240098
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
大澤 清二 大妻女子大学, 人間生活文化研究所, 所長 (50114046)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 民族別身体発達 / 南・東南アジア / 民族別発育 / 幼児 / 生育環境 |
Research Abstract |
日本、タイ、ミャンマー、ネパール児童の発達の諸相を明らかにしその標準値を策定する事が本研究の最終的な目標である。発達に関してはこうした研究が従来存在しなかったので専門分野のみならず社会的な意義が非常に大きい。 〇24年度上期●調査地毎に年間計画を作成し担当者間でこれを確認した。昨年度の研究結果及び進捗状況をお互いに報告した。●前年に収集した日本人児童約2,000人のデータ入力を行った。●タイ山岳地域における狩猟採集民ムラブリの発育発達追跡調査を実施した。●カレン児童(タイ)の縦断的な調査を行った。●アンダマン海上(ミャンマー外国人立ち入り禁止区域)の狩猟採集民モーケンの調査は異例の許可を州首相から得て実施するので現地政府との交渉を行い結果許可を得た。これは12年前に日本のNHKが現地に入って以来の快挙であった。●ミャンマー都市児童調査による生活習慣と発達に伴う身体症状に関する調査結果が重要な情報を含んでいたので現地政府、大学関係者に対して報告を行った。●ネパールのシェルパ等7民族の児童第2次調査を行った。 〇24年度下期●狩猟採集民モーケンの調査を12月に敢行した。この調査により人類学的にも貴重なデータが大量にもたらされた。その結果モーケン人の発達は極めて早熟で既に幼児期において殆どの生活上必要なスキルを身につける事が明らかになって来た。これは海上という危険な環境において生存する為の適応戦略と予想している。●対する山岳地域のムラブリは大家族に見守られながら比較的安全にゆっくりと発達するらしい。●ネパール人児童の暫定的な解析結果としてシェルパの発育発達はネパール諸民族の中では特異的であり独特の小さくずんぐりした体構となる事が分かって来た。●日本人、ネパール、モーケン、ムラブリ等諸民族児童の58項目の発達調査結果を解析して第11回日本発育発達学会で報告し理事会より高い評価を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「2.おおむね順調に進展している。」と自己評価している。この研究テーマはアジア地域の広い範囲の多様な民族の発達状況を明らかにして、最終的には発達の標準値をそれぞれの民族ごとに示すというものである。この為には大掛かりなプロジェクトを計画的に運営してゆかなければならないという点で研究プロジェクトを支えるロジスティックが占める部分がかなり大きい。現在までのところではロジスティックは充分に機能しており、その為に困難な課題ではあるがほぼ目標に近い成果が達成されている。 前年に収集した日本人児童に関する調査も岐阜県、山梨県、千葉県などの保育所、幼稚園の協力で約2,000人のデータが収集できた。タイ山岳地域における狩猟採集民ムラブリに関する発育発達追跡調査は現地博物館関係者らの協力で定期的に追跡調査で出来るようになった。カレンをはじめ他の山岳民族の調査はムラブリに比べれば調査環境は良好であり、順調である。一方、ミャンマーのアンダマン海上におけるモーケン調査は現地が外国人立ち入り禁止区域であり、入境許可を州首相から得て実施すると言うものであった。幸い現地教育省とのこれまでの協力関係もあって現地政府との交渉が順調にでき、異例に許可を得た。これは12年前に日本のNHKが現地に入って以来の快挙であった。調査結果も世界で初めてのデータを収集することができ、大きな成果を上げることが出来た。ネパールに於いてもシェルパなど7民族の児童第2次調査を行い、標準値策定に向けて前進した。
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Strategy for Future Research Activity |
●タイ、ミャンマー、ネパール、日本の調査地域毎に年間作業計画を作成し、日本側と現地側でこれを確認する。平成24年度の研究結果を国別にまとめる。●タイに関してはムラブリを中心としてカレンなどの周辺山岳民族の発育発達追跡調査を継続して実施し、相互比較して報告する。●ミャンマーについては、20000人のミャンマー各地のデータを解析し、標準値策定に向けて日本発育発達学会にて発表する。●同じく、ミャンマー各地のOD調査結果を集計して公表する。●モーケン人に関しては前年のデータを吟味するとともに、これを発育発達の諸領域ごとに解析し、他の諸民族と比較して日本発育発達学会などで発表する。●新たに、ミャンマーのカレン人の中で特殊な人体変工をするパダウン人の発達調査を行い、その影響を男女比較して明らかにする。●日本人児童約2,000人のデータに加えて更に地域を拡大して4000人とし、これを解析して日本人児童の発達標準値を提案するべく解析を進める。●ネパールのシェルパなど7民族の児童の発達調査結果を公表する。●山岳地域に生きるムラブリと海上に生きるモーケン、高地にすむシェルパなどを中心として特異な環境下で人がどのように発達してゆくかをグローバルな視点から生態学的に検討する。●これらの研究成果を第12回日本発育発達学会で報告するとともに、「人間文化研究」(International Journal of Human Culture Studies)や「発育発達研究」誌上で発表する。
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