2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23241064
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
仙波 憲太郎 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70206663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 恵美 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (50540796)
今井 順一 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (70376739)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ゲノム / がん |
Research Abstract |
我々は平成16年~17年に193種のヒト癌細胞株から遺伝子発現情報を収集した。そのデータの解析と実験的検証を繰り返して効率的なアンプリコンの抽出法を確立し、乳癌細胞株に新たに7カ所のアンプリコンを発見した(Ito et al, 2007)。さらに、この手法を用いて乳癌の細胞株および組織でNOTCH3の遺伝子増幅を発見し、NOTCH3依存的な癌細胞の増殖とともに論文報告した(Yamaguchi et al, 2008)。アンプリコンを調べることで発癌に関わる遺伝子を単離できることが一連の実験により証明されたが、アンプリコンに存在する遺伝子を一つずつ単離して調べることは現実的に不可能と思われた。しかし、我々はすでに実績のあるヒト完全長cDNA発現ライブラリーを持つ五島らと緊密な連携をとることにより、アンプリコンに存在する遺伝子をすべてを発現させる実験系を構築した。そして、この2年間に乳がんをモデルに選び、乳腺の管腔構造のモデルであるヒトMCF10A細胞、増殖がきわめて速く解析時間を短縮できるNMuMG細胞、発癌実験でもっともポピュラーなNIH3T3細胞にecotropicレセプターを発現させる等の目的に応じた改変を行って使用することにより、複数のがん遺伝子候補を単離することに成功し、GRB7については論文報告した(Saito et al, 2012)。特に平成24年度は、これまでERBB2が発癌の責任遺伝子であると知られていた17q12-21にはERBB2以外に、GRB7ならびに複数の遺伝子が発癌と浸潤能の獲得に寄与していることを発見するとともに、最終年度に向けて乳癌のその他のアンプリコンの包括的な解析を開始し、乳癌の異なるアンプリコンから少なくとも2つの癌遺伝子候補を発見した。また、当初の研究計画には入れていなかったマウスを用いた造腫瘍実験系の確立に向けた進展があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 乳癌のERBB2アンプリコンの解析については、平成24年度に875遺伝子の発現ベクターを回収し、遺伝子スクリーニングを開始することができた。その結果、一部のアンプリコンで新たな癌遺伝子候補が発見することができた。この点では、当初の計画通りに進んで、成果が得られたと判断する。なお、他の癌(肺がん、大腸癌)のアンプリコンの抽出は終了しているが、実験の開始には至っていない。平成25年度に着手すべき課題である。 2) トランスフォーメーションアッセイ用細胞の樹立 肺がんの癌遺伝子を探索するために、マウス肺上皮細胞からlarge T抗原の発現により不死化細胞を単離した。単離した細胞は確かに上皮細胞のマーカーを発現していたが、残念ながら、肺上皮細胞をさらに区別する特異的なマーカーの発現は消失しており、さらなる分離技術や不死化の手法の改良が必要と考えられた。なお、この肺上皮細胞が癌遺伝子の探索に使用できるかどうかの検討を進めている。この研究項目においても一定の成果は得られたと判断する。 3) 動物実験系での造腫瘍アッセイ系の確立 平成23年度より着手していた動物への造腫瘍実験系について、3つの新たな実験系を立ち上げることができた。これは当初の研究費申請段階では盛り込んでいなかったが、想定以上の進展を見せた判断する。すなわち、乳腺上皮細胞であるNMuMG細胞を用いた癌遺伝子の造腫瘍アッセイ系、乳管内細胞移植系(intraductal injection)、乳腺幹細胞への遺伝子導入という新たな実験系の確立に成功し、今後、細胞ではなく個体レベルの遺伝子スクリーニング系の開発の手応えを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
この課題においてあげている乳癌およびその他の癌におけるアンプリコン内の包括的な遺伝子のスクリーニングの方針にはおおむね変更はないが、最終年度に向けて成果を論文として発表するためには、単離した遺伝子の機能解析を短時間に行わなければならない。そのために、まず、これまで乳癌のアンプリコンから単離してきた遺伝子について、分子細胞生物学的なシグナル研究だけでなく、マウスを用いた造腫瘍アッセイでの評価や、昨今着目されている癌細胞の代謝異常や幹細胞性への脱分化との関連性についても着目して、集中的に研究を行う。アンプリコンに含まれる遺伝子は、増殖を促進するものから、浸潤を加速するものまで様々であることがわかってきた。したがって、一つのアンプリコンのなかでの複数の遺伝子の同時過剰発現が、いかに協調しながら発癌の素過程を独立に加速するかを明らかにして、アンプリコンの発癌における機能を統合的な理解できるように研究を進めたい。肺がんの癌遺伝子の解析のためにはNIH3T3以外に適切な受容細胞がないことから、自分たちで発癌のスクリーニングに使える受容細胞の確立を試みてきたが、その過程で上皮細胞の分化段階を維持することができない可能性がでてきた。分化状態が培養により維持されないことは組織培養にまつわる古くて新しい問題であるが、iPS細胞の技術はこれを解決する可能性があると考え、新たな研究計画を立案して実行している。
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