2013 Fiscal Year Annual Research Report
文明移動としての「仏教」からみた東アジアの差異と共生の研究
Project/Area Number |
23242036
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
新川 登亀男 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50094066)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
肥田 路美 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00318718)
河野 貴美子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20386569)
大久保 良峻 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30213664)
李 成市 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30242374)
森 由利亜 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30247259)
工藤 元男 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60225167)
川尻 秋生 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70250173)
高橋 龍三郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80163301)
城倉 正祥 早稲田大学, 文学学術院, 講師 (90463447)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / 国際情報交換 / 中国 / アメリカ / インド / 東南アジア / レーダー探査 / 差異 |
Research Abstract |
第一に、本研究の日常的な基盤となる定例研究集会を7回おこなった。 第二に、特別研究集会を2回開催した。1回目は、古井龍介・馬場紀寿両氏(東京大東文研)を招いて、インドおよび東南アジアの仏教文明に関する最新の研究状況を学び、意見交換をおこなった。仏教文明の本源と東アジア仏教との差異を知ることができた。2回目は、石見清裕氏(早稲田大)を招いて、中国太原地域の地政学的位置を学んだ。これは、前年度における本研究での太原石窟(仏教・道教)調査を補うものである。 第三に、シンポジウムを早稲田大学で2回開催した。1回目は、9月28日の「対敵と仏法」である。昨年度の課題を継承して、これまで見失われがちであった仏教の実践的側面、つまり造形物にみられる対敵、調伏、防御の役割を追求した。大島幸代(龍谷大)、三上喜孝(山形大)、長坂一郎(東北芸工大)、黒田智(金沢大)、長岡龍作(東北大)各氏の報告を受けて討論がおこなわれた。2回目は、12月21日の「言語・文字の転回からみた『仏教』流伝」である。翻訳を含む言語文字表現の変革と仏教の関係を問題視した。朱慶之(香港教育学院)、吉田豊(京都大)、阿部龍一(ハーバード大)、ジョン・ウイットマン(国立国語研究所)、河野貴美子(早稲田大)各氏による報告および問題提起がなされた。 第四に、研究分担者城倉正祥氏を中心にして、2014年2月末から3週間以上、千葉県龍角寺跡の調査をおこなった。かつて多くの文字瓦を出土した本寺院跡は、仏教文明の列島移動において注目されるところであるが、本格的な調査は進んでいなかった。このたびは、最新技術のレーダー探査などを駆使し、廻廊を含む伽藍配置の歴史的変遷などを確認した。また、散布する古代瓦を慎重に回収し、次調査に備えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一に、インドおよび東南アジアの仏教文明について、現在の研究成果と今後の課題について知ることができた。とくに、当該地域において仏教を支えた社会階層や僧集団の形態、スリランカの役割、大乗・小乗仏教の区分に関する認識のあり方、日本との関わり方、などについて活発な意見交換ができた。また、仏教がなぜ流伝し得たのかという基本問題にも触れるところがあり、東アジアの仏教文明とインド・東南アジアの仏教文明との比較研究が必要であることを確認した。 第二に、中国太原地域と朝鮮半島との結び付きが推認できること、また、北朝や北方民族と隋唐帝国との結び付きが仏教文明の伝播といかなる関係にあるのかを議論し、太原石窟の理解を深めた。 第三に、仏教の世俗的な実践の正体を理解するための有力な視座を得た。本来、仏教には攻撃的な敵対意識はないとされるが、自国家や社会・集団の鎮護保全を祈ることが、逆に、対敵や排斥へと転換するメカニズムを内包していることが議論された。その際、毘沙門天像、四天王像、権現・明王像、地蔵などの形象を生み出し、諸信仰ないし民俗儀式と仏教との複合化が顕著であることも確認できた。第四に、仏典の翻訳が言語文字表現の転回に大きな影響を及ぼしたことが指摘された。それは、サンスクリットから漢語への翻訳という方向性のみでなく、漢語から各種の中央アジア言語への翻訳、あるいは漢訳にみられる旧・新の差異などが問題提起された。 第四に、寺院跡調査における技術革新が飛躍的に進んだことを受けて、古代から現代にいたるまでの寺院伽藍の変遷が効率的に分かるようになった。列島内で東伝する仏教と、同じ地域で歴史的に展開する仏教とを縦横に把握する視座が具体的に得られた成果は大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、本研究の最終年度に当たる。よって、これまでの研究を継続しながら、同時に、その総括をめざす。 第一に、旧来からの意図をもって、定例研究集会を続ける。 第二に、ヴェトナムのハノイ周辺で近年発見された隋仁寿舎利塔銘の特別報告検討集会を7月に早稲田大学で開催する。ハノイ国立大学の若手研究者を招聘し、日本側から歴史および美術の研究者も加わって、隋代仏教と東南アジアの歴史との交差について検討をおこなう。 第三に、10月末の2日間、仏教文明の形成をめぐる日本・韓国・中国合同の国際学術シンポジウムを早稲田大学において開催し公開する。このシンポジウムでは、本研究の三本柱である「世俗秩序」、「造形・言語文字表現」、「宗教複合化」と仏教との関係をそれぞれ意識しながら、歴史・美術・思想・考古・文学などの諸分野から約20名の報告が予定されている。そして、アジアにおける仏教文明の共生ないし差異について、また、仏教がなぜ東伝したのかについて、討論と問題提起の時間を確保する。なお、韓国側は高麗大学校韓国史研究所を中心にして東国大学校などの研究者も加わり、中国側は陝西師範大学その他の研究機関が合同で加わる。日本側は本研究チームと早稲田大学文学学術院人文科学研究センターが中心となり、国内の該当する研究者にも広く協力を求める。 第四に、これまでの研究成果を書籍形式でまとめる。本研究の研究分担者が毎年おこなってきた研究実績と、各種研究集会やシンポジウムなどを通じての研究協力者の研究実績とを集約する。さらに、日本の神亀以前における仏教受容について各種データー化した成果をも加える。このデーター化は、若手の研究補助者らによってなされるものである。
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