2012 Fiscal Year Annual Research Report
軟X線分光による液体・溶液の局所電子構造解析法の確立
Project/Area Number |
23245007
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
小杉 信博 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 教授 (20153546)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
繁政 英治 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 准教授 (90226118)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 量子ビーム / 内殻励起 / 溶液 / 液体 / 分子間相互作用 |
Research Abstract |
本研究に専従する博士研究員を公募し、応募者の中から1名選考し、本研究の2年次から雇用し、以下の研究を実施した。 (1)試料厚みのむらがあると吸収スペクトルの絶対値の見積もりに誤差が生じる。厚みむらをUVSOR施設で新たに開発した透過軟X線吸収顕微鏡で評価するため、現在利用している液体セルをそのままで顕微鏡に導入できるような機構を設計開発した。実際の評価は3年次に行う。 (2)芳香族液体の局所構造解析として、ベンゼン、ピリジン、フルオロベンゼンを液体セル(試料厚み1μm以下の薄膜セル)で測定した。特に、固体ベンゼンの構造の温度変化とスペクトル変化の対比により、スペクトルシフトから分子間距離の変化を定量的に評価する方法を確立し、局所液体構造を議論した。同じ液体セルを使って赤外吸収スペクトルの測定を可能とし、軟X線吸収スペクトルの挙動と比較検討を進めた。また、アセトニトリル、メタノール、アンモニアについても実験を行い、疎水性及び親水性相互作用の観点でスペクトルシフトの一般則を導くことに成功した。 (3)共鳴および非共鳴軟X線発光によれば分子の価電子励起状態(ラマン活性の対称性をもつもの)とイオン化準位(価電子光電子分光に相当)がわかる。分子が液体状態になったときのこれらの電子状態の変化の観測が可能かどうかを調べた。一般的に、発光は中間状態と終状態の差であり、価数が変わらないため、近接分子による変化がキャンセルされてはっきり見えてこないことが判った。アセトンとDMSOについての結果を論文として発表した。 (4)2成分系の液体モデルの理論解析の準備として、窒素分子とアルゴンのクラスターの内殻スペクトルの実験と理論解析を行い、論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究グループが開発した液体セルを利用した軟X線分光実験は予想以上に進んでおり、実験データが蓄積している。一方、実験で見つかっている変化が何に由来するかについては、赤外吸収分光など、他の分光学的研究や分子動力学シミュレーションなども併用する必要があり、論文にまとめる際の律速になっている。 本研究グループが液体、溶液を手がけるのは本研究をきっかけとしており、まだ、2年程度しか経っていないが、国際会議、国内会議の招待講演などの依頼が増えつつあるので、成果は認知されてきたと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で開発した液体セルは単に液体、溶液専用の試料セルではなく、試料厚みの制御が簡単に行えるなどの特徴があり、一般的に気体、液体、固体表面反応(触媒等)、酸化還元反応(電極)などのその場観測が可能に出来るセルであり、今後、広く利用できる基本ツールになるものと期待できる。あと1年で本研究は終了するが、その先の展開も考えつつ、最終年度の研究を進める方針である。
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Research Products
(9 results)