2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23245027
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
芥川 智行 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (60271631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂井 賢一 千歳科学技術大学, 光科学部, 准教授 (50342788)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分子性結晶 / 強誘電体 / 分子モーター / 金属錯体 / 水素結合 / ガス吸着 / 誘電応答 / 分子機械 |
Research Abstract |
分子性結晶中の分子回転運動を設計し、それに伴うマクロな新規物性を開拓する事を研究目的とする。分子回転と連動した強誘電性を示す(m-fluoroanilinium)(dibenzo[18]crown-6)[Ni(dmit)2]結晶を出発点とし、結晶中におけるm-fluoroaniliniumカチオンのフリップ-フロップ運動に伴う分極反転を設計指針とした研究を実施した。極性配位子を有する新規な金属錯体ポリマーとして、[Cu2(R-Benzoate)4(pz)]に着目した。R-Benzoateとして、m-fluorobenzoate, 2,3-difluorobenzoate, m-methylbenzoate, m-chlorobanzoateを導入した一次元ポリマーを作製した。これらの配位子は、いずれもメタ位に置換基を有し配位子の分子回転運動に伴う双極子モーメントの変化が可能である。全ての錯体の単結晶X線結晶構造解析から、ポリマー鎖間に結晶化溶媒であるCH3CN分子が存在するチャネル構造が形成している事が判明した。熱重量分析とH2Oに対する吸着等温線から、チャネル内のCH3CN分子は容易にH2O分子に置き換わることが示された。また、チャネル内のH2O分子を前処理により完全に除去した後、195 KにおいてCO2の吸着等温線を測定したところ、ゲート吸着機構に典型的な構造相転移を伴う挙動が観測された。以上の結果より、CO2ガス吸着下における誘電率の温度依存性に関する評価から、極性配位子の分子運動を評価した。フッ素基を置換基として有するポリマーで、290 K付近で誘電応答が出現し、これは極性配位子の熱揺らぎに起因する結果である。低温でCO2ガスがチャネル内に吸着した錯体は、昇温により分子運動が誘起され、CO2ガスの脱離が生じると共に極性配位子の分子運動が誘起されると結論できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、東北大学への着任後、東日本大震災により研究設備・研究進捗状況に大きな影響分子集合体中の分子運動とバルク物性の融合に関して、新規な動作原理に基づく誘電秩序(反強誘電体および強誘電体)の実現を目標とした研究を実施した。極性配位子を有する新規な金属錯体ポリマーである[Cu2(R-Benzoate)4(pz)]系に関しては、新規錯体を約15種類作製し、そのX線結晶構造解析・熱安定性の評価・CO2吸着等温線の測定を基盤として、ガス吸着に伴う誘電応答の出現に関する検討を実施した。これは、ガス吸着と誘電応答を連動させた新概念に基づく物性応答システムを実現できた点で、研究実績として高く評価できる。それに伴い、ガス圧下での誘電率測定システムを立ち上げる事に成功した点も評価できる。 新たな分子回転型の物性応答システムの物質開発に関しても、千歳科学技術大学の坂井によりジシアノルマジン系アクセプター分子の形成する電荷移動型の分子性結晶が開発され、分子性結晶中の分子運動と発光特性の連動に関する検討が行われている。また、東北大学においても6置換ベンゼン誘導体の面内回転運動と誘電物性の融合に関する研究が着実に進展している。巨視的な双極子配列とその薄膜化に関する検討として、メタ置換ベンゾアート塩が示すスメクチック液晶性化合物の相転移挙動と誘電応答に関する研究を実施した。新たな層状化合物に着目した新材料の開発が進んでいる事から、次年度に向けて着実な研究の進展が見られた。その結果、2012年度は9報の論文発表を行い、学会発表に関しても国内学会51件と国際学会17件の成果発表を実現した。研究成果のアピールに関しても着実な活動を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
分子性結晶の分子設計とその分子配列制御は、分子運動空間を確保し分子回転運動とバルク物性の融合を可能とする。本研究を実施するに際して、結晶構造の詳細な解析とその制御から、空間制御と物性開拓が可能となる。2012年度には、温度可変単結晶X線結晶構造解析装置の導入も実現し、新物質の開拓と物性評価を効率的に実施できる研究環境が整った。また、物性測定に関しても種々のガスを導入した環境下での誘電率評価を可能とする測定システムのプロトタイプが完成した。今後、ガス圧の適用範囲の拡張と測定温度域のさらなる改良を試みる。新物質の開発に関しては、千歳科学技術大学の坂井により新規なイミダゾール系の水素結合性分子性結晶を元にした強誘電体の開発が進んでいる。その構造と物性の詳細についてプロトン移動と分極構造の発生についてのメカニズムを東北大学で検討する予定である。また、スメクティック液晶性のベンゾアート塩や面内回転型の6置換ベンゼン誘導体に関しても、新物質のさらなる開発が進んでおり、分子集合体中の分子配列様式と誘電応答に関する詳細な検討を実施予定である。薄膜試料の誘電物性の評価に関しては、液晶セルを用いて、偏光顕微鏡観測を同時に行いながら誘電物性を直接観測可能なシステムを構築した。その結果、分子回転運動の発生に伴う複屈折率の変化を、偏光顕微鏡を用いて直に観測できるようになった。以上の手法から、多彩な物質の誘電物性を直接観測することが可能で有る。
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Research Products
(54 results)