2012 Fiscal Year Annual Research Report
創造的インテリジェントDDSによる脳虚血再灌流障害の診断と治療の新展開
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23249005
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
奥 直人 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10167322)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 広介 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (30423841)
武田 厚司 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (90145714)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 脳梗塞 / 虚血再灌流障害 / 薬物送達システム / DDS / リポソーム / アシアロエリスロポエチン / タクロリムス / PET |
Research Abstract |
脳血管疾患は、我が国で要介護第1位の重篤な疾患である。脳梗塞では脳虚や再灌流時に血管透過性が亢進することから、ナノ粒子製剤が有効に働く可能性が考えられる。本研究は、虚血性疾患の新たな診断薬・治療薬としてDDS製剤の有効性を示し、新たな診断・治療法を確立することを目的とした。 脳虚血再灌流モデルには、栓子法による一過性中大脳動脈閉塞モデル(t-MCAO)を用いた。再灌流までの時間等の条件検討は、TTC染色を用いた脳細胞死のモニタリングと、FITC-dextranを用いたBBB破綻に伴う高分子漏出の蛍光イメージング(インビボ蛍光イメージングシステムIVISを使用)測定により行った。これらの基礎検討を基に、蛍光標識リポソームを用いた虚血再灌流後のリポソームの蓄積プロファイルを検討し、リポソームが早期から虚血部位およびペナンブラに集積することを明らかとした(Biochem Biophys Res Commun, 2013)。さらに共焦点レーザー顕微鏡を用いた虚血再灌流部位でのリポソームの脳組織内分布を明らかとした。次に脳細胞保護作用が知られ虚血疾患への有効性が考えられるアシアロエリスロポエチン(A-EPO)についてDDS製剤の有効性を検討した。まずリポソームにA-EPOを修飾することにより、A-EPOの血中滞留性が向上し、脳血管障害部位を標的としたアクティブターゲティングDDSが可能となることを明らかとした。さらに虚血部位での脳細胞アポトーシスを抑制し、脳細胞死を抑制することを明らかとした(J Control Release, 2012)。また脳虚血の後遺症として見られる運動能についても有意な回復効果があることを明らかとした(Int J Pharm, 2012)。さらにリポソーム化した低分子薬剤を用いた場合にも同様な効果があることを明らかとした(FASEB J, 2013)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では脳梗塞虚血再灌流障害を改善するために、虚血再灌流時にリポソームにより脳保護効果を有する薬剤を早期に虚血部位、再灌流部位に送達する創造的インテリジェントDDSの開発を目指した。脳虚血再灌流モデルとして一過性中大脳動脈閉塞(t-MCAO)モデルラットを用いたが、継時的な血流測定により、本モデルの妥当性を検証した。リポソームの再灌流後における虚血部位への集積は蛍光色素DiI標識リポソームの脳内インビボイメージングシステム(IVIS)による観察、および放射標識リポソームの分布から明らかとした。次にアシアロエリスロポエチン(A-EPO)のDDS製剤化を検討し、方法論を確立した。脳虚血再灌流モデルにおけるA-EPO製剤の脳内分布および治療効果を検討した。A-EPOリポソームは脳組織に浸潤し、神経細胞周辺に分布することをDiI標識リポソームを用いた共焦点レーザー顕微鏡観察から明らかとした。また虚血再灌流部位で見られるアポトーシス細胞(TUNEL染色)の数はA-EPOリポソームの処理により有意に減少した。A-EPOリポソームの脳保護効果について、TTC染色による脳細胞死と脳浮腫で評価したところ、A-EPOリポソーム投与により明らかに脳細胞が保護されていることを見出した。また行動薬理学的試験により、運動能の回復を明らかにしたが、これらはいずれも単回投与のA-EPOリポソームにより達成されたもので、このような劇的な効果を見出したことは高く評価できると考える。また、研究が予想以上に進展したため、低分子医薬品でも同様の効果が得られるかどうかをFK506内封リポソームを調製することで検討した。FK506内封リポソームは、A-EPOリポソームと同様に、脳細胞死を低減し、脳保護効果を示し、虚血再灌流障害に基づく運動能の低下を回復させた。
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Strategy for Future Research Activity |
【リポソーム製剤による血栓溶解療法の有効性の向上】上記のように研究が予想以上に進展したため、より臨床に近い検討を行う。すなわち脳梗塞初期には、使用上の制限が多く数%の患者にのみしか適用されないが、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)を用いた血栓溶解療法が適用される。その使用は脳梗塞から4.5時間以内と極めて限られている。虚血再灌流時でなく、虚血時にもリポソーム製剤が有効であれば、tPAの治療時間(Therapeutic time window)を広げることが可能となる。そこで脳虚血時にリポソーム製剤を投与し、その後の再灌流における障害の緩和が可能かどうかを検討する。具体的には虚血時にリポソーム製剤を投与し、時間をおいて再灌流し、脳細胞死等について検討する。これには栓子法を用いる。さらにより臨床に近いモデルとして、ローズベンガル投与後に脳血管をレーザー照射して血栓を形成するPITモデルを作成する。この系では、実際の臨床と同様にtPAによる血栓の溶解を起こすことが可能であるため、溶解前に投与したリポソーム製剤の効果が検討可能である。 【脳梗塞時のリポソーム動態PETイメージング】我々は、既にナノ粒子を簡便にポジトロン標識できる方法論を確立した。そこで、A-EPOリポソーム製剤を調製後にポジトロン標識を行い、脳虚血再灌流モデルラットを用いた虚血再灌流部位のイメージングへの応用を検討する。すなわち基礎検討で得られた虚血再灌流時の脳障害の時間経緯に合わせたイメージング像の変化を詳細に検討し、脳虚血・虚血再灌流の診断、治療効果の診断が可能なPET製剤を開発する。
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Research Products
(11 results)