2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23251001
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邉 悌二 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 教授 (40240501)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水嶋 一雄 日本大学, 文理学部, 教授 (00096918)
荒瀬 輝夫 信州大学, 農学部, 准教授 (10362104)
白坂 蕃 帝京大学, 経済学部, 教授 (40014790)
落合 康浩 日本大学, 文理学部, 教授 (40246799)
泉山 茂之 信州大学, 農学部, 教授 (60432176)
澤柿 教伸 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (70312410)
宮原 育子 宮城大学, 事業構想学部, 教授 (80295401)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際貢献 / 持続性 / エコツーリズム / 環境変化 / 回復力 / 環境適応 / 生態系保全 / パミール |
Research Abstract |
これまでに引き続いてキルギス国内の2地域(サリチャト・エルタシおよびアライ谷)とタジキスタン国内の2地域(カラクル湖およびワハン回廊)を中心に現地調査をすすめた。 1991年の独立以来,貧困社会の改善は認められず,住民は政府への依存をあきらめ自らの力で適応を始めている。キルギス・アライ谷では,広大な放牧地の餌資源が必ずしも不足しているわけではなく,地域外からの放牧者を受け入れ始めている。また,わずかずつ増加している観光客から得られる収入がごく一部の世帯に偏って入るようになってきており,注視が必要である。タジキスタンのワハン回廊においても観光客から収入を得ようとする世帯が増えており,そこでは伝統的な習慣や考え方が喪失する懸念が大きくなってきている。一方,サリチャト・エルタシでは,政府が自然資源の枯渇に繋がり得る政策を打ち出しており,GPS首輪を用いた調査から絶滅に近い野生動物を保護する方向とは真逆の方向に向かおうとしていることが危惧される。エコツーリズムの導入に関しては,それぞれの地域での現状と問題点が明らかになってきた。 これまでの成果は,国内外の学会やシンポジウムなどで口頭発表を行ったが,特にドイツ・ケルン大学で開かれた国際地理学会議では,ドイツ人研究者とともに「中央アジア」を主体とした山岳環境問題のセッションを主催した。また,一般市民向けの公開シンポジウム(日大)や,日本山岳会の年次総会(札幌)においても講演を行った。さらに,札幌市近郊の立命館慶祥中学校・高等学校の高校3年生25名に対して,中央アジアの環境問題に興味をもってもらえるよう,「出前授業」の形式で講演をおこなった(H25年度にも予定あり)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成度は,「②おおむね順調に進展している」と「①当初の計画以上に進展している」の間であると自己評価している。この根拠は,これまでに得られたデータが,「脆弱な高山地域における気候変化が持続性と回復力を弱めている」というステレオタイプの考え方を否定することにつながり,山岳住民が実に多様な適応を行っていることが明確になってきたためである。さらに,キルギス国内での社会変容が,旧ソ連邦からの1991年の独立にとどまらず,急速な開発(金鉱山を中心とする自然資源に著しい影響を与える開発)やハンティング地域の拡大計画といった,想定外の急速な社会変容が認められたため,調査地域内で明瞭な地域差が顕在化した点をうまく捉えることができたことにもよっている。高山地域のコミュニティにおける持続的な社会を構築するために導入すべきエコツーリズム像については,これまでに得られた地理学的,生態学的,社会科学的データに基づいて,地域ごとに提言を行うために,後1年間の調査を必要とする。多くの成果が国際会議等で発表される状況に至っており,あとは印刷物として成果を取りまとめて行くことができつつある。また,この成果は,今後,南アジアを含めた中央・南アジア一帯における多様な変容と比較研究するための重要な基礎データとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
4つの対象地域のうち,キルギスのアライ谷ではかなりの調査が進んでおり,タジキスタンのカラクル地域およびワハン地域でも社会変容とその変容に対する適応の地域差が鮮明に理解できるようになってきた。いまだに移牧の急激な変化についてはデータが不完全であることから,データの蓄積が求められる。一方で,南アジアの山岳地域とは異なる社会変容・適応が生じており,南アジアとの比較研究への展開を視野に入れた調査を進めていくと良いと考えている。また,サリチャト・エルタシ保護区では,GLP首輪を装着した野生動物の頭数を増やすため,これまでに使用していない方法を模索する必要がある。この地域では,社会科学的データがまだ得られていないため,最終年度までに調査を進める必要がある。特に,金鉱山開発とダム開発の計画が政府によって認められつつあり,本研究の成果を政府に対して強く示す必要があると考えている。
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Research Products
(11 results)