2012 Fiscal Year Annual Research Report
古代パルミラの葬制の変化と社会的背景にかかわる総合的研究
Project/Area Number |
23251018
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
西藤 清秀 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 副所長 (80250372)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青柳 泰介 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 研究員 (60270774)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | パルミラ / 葬送用彫像 / 三次元計測 / 復顔 |
Research Abstract |
2012年度のシリアは、内乱状態が激化し、シリアで調査に従事していた世界中の調査団はすべて引き揚げている。2011年以降、調査を中断しているNo.129-b号墓と名付けられた家屋墓は、パルミラ博物館の西約100m、パルミラ都市遺跡の北側に接する北墓地に位置する有力氏族の墓である。 現在、現地調査に行ける状態ではない。そのため我々は、研究目的の大きな柱であるパルミラの葬制を現地調査から他の手法で理解すべく取り組んでいる。一つは一昨年、シリアから借り受けた頭骨2点の復顔であり、もう一つは様々な博物館・美術館に所蔵されているパルミラの葬送用胸像の3次元計測である。 頭骨の復顔は、東南墓地C号墓出土ヤルハイ頭骨とR4-2頭骨が出土した棺棚にはめこまれていた当人の彫像の顔と比較し、葬送彫像が本人に似せて作成されているのか否かを確認することである。これによりパルミラの葬制における葬送用彫像の意味を考える。復顔作業は、ロシアのモスクワにあるRussian Academy of the Ethnology and Anthropology と埼玉の彫刻家翁譲氏の2か所へ同じ頭骨での復顔作成を依頼し、復顔の作業の妥当性の確認をおこなった。その結果は、彫像は基本的に死者の顔に似せて作成され、復顔作業は、両者とも頭骨の同じ特徴を把握した復顔であり、彫像制作工人が死者を認識し彫像を制作したことが判明した。 葬送用胸像の3次元計測は、葬送用彫像製作にかかわる工人集団間にどのような差異が認められ、またどのくらい数の工人集団が存在するのかを見極めるために彫像の特徴を抽出、比較することを開始した。今年度は岡山市立オリエント美術館の1点とデンマーク・コペンハーゲンにあるニュカルスバア美術館所蔵百数十点の彫像のうち20点あまり計測を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2011年以降、調査を中断しているNo.129-b号家屋墓は、パルミラ北墓地に位置する有力氏族の墓である。パルミラ有力層の墓制の理解を図るため発掘調査を実施し、7割あまりの進捗状況である。さらに家屋墓の内部構造や外部構造、埋葬方法のさらなる調査が必要である。現在までこの発掘調査をとおしてこの家屋墓の3次元計測を実施し、墓の復元画像を作成し、成果報告ができ、一定の評価を得ている。さらに新たに検出したパルミラ崩壊後の乳児墓は、ポスト・パルミラ社会の葬制を理解する大きな要素であり、これまでにその情報を世界に発信することができたことは大きい。また墓を取り巻く環境を研究し、人骨に含まれた化学成分を分析・解析し、フッ素症の存在を明らかにし、鉛汚染の問題に取り組んでいる。埋葬された遺体の病理学的情報収集にも努め、葬制との関わりを模索している。 さらにパルミラの墓の象徴的存在である葬送用彫像の使用法、製作に関わる調査を3次元レーザ計測を開始し、葬送用彫像のパルミラ社会における葬制との関わりに対して新たな方向性を見出していおり、新たなパルミラ社会像を示すことができると期待している。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在、現地調査の実施は非常に困難な状況にあり、考古学、建築学、人類学、美術史、化学、地質学において3割程度の進行が困難になっている。しかし、この研究の最大の目的はパルミラの葬制と社会の理解である。そのため、昨年度から葬送用彫像や被葬者頭骨の復顔をおこない、パルミラ社会での葬送用彫像の役割の理解に努めている。今後も世界の博物館・美術館に所蔵されている葬送用胸像の3次元計測をおこない、葬送用彫像製作にかかわる工人集団間にどのような差異が認められ、またどのくらい数の工人集団が存在するのかを見極めたい。今年度以降、デンマーク・コペンハーゲンにあるニュカルスバア美術館をはじめとして各館所蔵の葬送用彫像の計測を実施したい。 また日本にサンプルを持ち帰っている既往調査で出土した歯牙を用いてDNA調査を日本ですすめる。女性とから副葬品との関わりについては言及しているが、既往調査の地下墓の人骨のDNA分析から地下墓における女性の家族での棺使用空間の序列を検討する。特に墓における女性の位置づけや役割を考える。 地質学班は、墓の地震による倒壊を明確化させるため地震痕跡の調査をおこなう。自然環境班はこれまで水を分析し、歯に含まれるフッ素量との関係を言及したが、2012年度以降は歯に含有された鉛の分析をさらにすすめ、パルミラの社会環境の復元、特に飲食・職掌について考えてみる。 建築学的には2010年までに計測した家屋墓のデータを用いて129-b家屋墓のより精度の高い3次元復元画像を制作し、他の計測した家屋墓との比較研究をおこなう。
|
Research Products
(11 results)