2014 Fiscal Year Annual Research Report
古代パルミラの葬制の変化と社会的背景にかかわる総合的研究
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23251018
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Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
西藤 清秀 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 嘱託職員 (80250372)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青柳 泰介 奈良県立橿原考古学研究所, 調査課, 総括研究員 (60270774)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | パルミラ / 墓制 / 葬送用胸像 / 3次元計測 / 工人・工房 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、古代パルミラ人の葬送儀礼や死生観を理解することである。2006年に調査を開始したパルミラ北墓地No.129-b号墓と名付けられた家屋墓は、有力氏族の墓である。パルミラ人の墓制を総合的に理解するため、この家屋墓の内部構造や外部構造、埋葬方法の調査を実施していた。さらに新たに検出したパルミラ崩壊後の乳児墓は、ポスト・パルミラ社会の葬制を理解する大きな要素と考えていた。またパルミラの墓の葬送用彫像の使用法、製作に関わる調査からパルミラ社会における葬制のあり方を理解することである。 2014年度のシリアは、2011年に始まった内戦がさらに激化し、現地調査は不可能になった。そのため我々は、研究目的であるパルミラの葬制を現地調査から葬送用彫像の研究へシフトした。 パルミラの葬送用彫像は、2013年度に復顔した顔と棺棚に嵌めこまれていた当人の彫像の顔と比較し、葬送彫像が本人に似せて作成されていたことを確認することができた。さらに彫像の顔の表現は、埋葬された死者の顔より若いことが確認できた。彫像制作工人は、若い時の肖像画や特徴を認識し、彼等の彫像を制作したこという仮説を立てた。そのことから葬送用胸像の3次元計測により個々の彫像を客観的に比較し、彫像の個性を見出し、彫像製作にかかわる工人集団間にどのような差異が存在するのか、またどのくらい数の工人集団が彫像制作に関わっているのかを見極めることに務めている。2014年度はデンマーク・コペンハーゲンにあるニュカルスバ-グ美術館所蔵のパルミラの彫像とローマ彫像を中心に130点あまりを計測した。さらにオーストリア・ウイーンにあるウイーン美術史美術館所蔵のパルミラの彫像の3次元計測を実施した。また次年度の計測のため、ルーブル美術館、イスタンブール考古学博物館、ベイルート・アメリカン大学博物館所蔵の彫像の計測に向け打合わせをおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、古代パルミラ人の葬送儀礼や死生観を理解するため2006年以来パルミラ北墓地No.129-b号墓と名付けられた家屋墓の調査を実施していた。しかしながらシリアでは2011年春に始まった内戦は、激化の一途をたどっている。そのため3年~4年で修了すると考えていたこの家屋墓の調査は、シリアへの渡航が困難なことから、2011年調査を中断せざるを得なくなり、それ以降今年度に至っても再開できる見通しは立っていない。そのため、2011年、我々はパルミラ現地での調査が不可能なことから、我々の研究目的の大きな柱であるパルミラの葬制の研究に関して、家屋墓の発掘調査からパルミラの墓の象徴的存在である葬送用彫像の使用法、製作に関わる調査を通してパルミラ社会における葬制のあり方を理解するという葬送用彫像の研究へシフトすることにした。幸いにも2011年、代表者がパルミラを訪れ、1991年の発掘調査で出土した頭骨をシリア政府の許可を得て、日本に借り入れ、その頭骨の復顔を実施した。この頭骨の復顔は、頭骨の納められていた棺の蓋としてはめられていた被葬者の胸像の顔との類似性を明確に示し、まさに胸像は被葬者の肖像・遺影であることが判明した。そのためパルミラの葬制において石工集団の役割の大きさと重要性を認識した。それゆえ、現在、葬送用胸像の制作に関わる石工工房・工人を同定するためにパルミラの葬送用胸像を所蔵するヨーロッパの美術館の協力を得て胸像の3次元計測を実施している。以上により、現地での発掘調査は中断するものの、葬送用彫像の調査によってパルミラの葬制研究は概ね進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年以降、我々のパルミラでの現地調査が不可能となった。あと数年で発掘調査を完了できる見通しであったため、中断は残念と言わざるを得ない。しかしながら、我々の研究目的であるパルミラの葬制の研究に関してはパルミラの墓の象徴的存在である葬送用彫像の使用法、製作に関わる調査を通してパルミラ社会における葬制のあり方を理解するという葬送用彫像の研究へシフトすることができた。そのような中、シリアから借り受けた頭骨の復顔は、頭骨の納められていた棺の蓋としてはめられていた被葬者の胸像の顔との類似性を明確に示し、パルミラの葬制において葬送用胸像と石工集団の役割の大きさと重要性を提示してくれた。そのため、現在、葬送用胸像の制作に関わる石工工房・工人を同定するためにパルミラの葬送用胸像を所蔵するヨーロッパの美術館の協力を得て胸像の3次元計測を実施している。以上により、現地での発掘調査は中断するものの、葬送用彫像の調査を引き続き実施することからパルミラの葬制の理解に迫りたいと考えている。しかし、シリアの情勢が急転し、シリアへの渡航が許されるならば現地調査を再開したいと考えている。
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Research Products
(6 results)