2012 Fiscal Year Annual Research Report
北朝鮮民衆の生活実態に関する文化人類学的研究―脱北者情報の分析を通して―
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23251024
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
伊藤 亜人 早稲田大学, アジア研究機構, 教授 (50012464)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松谷 基和 早稲田大学, 留学センター, 講師 (20548234)
板垣 竜太 同志社大学, 社会学部, 准教授 (60361549)
李 仁子 東北大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (80322981)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 北朝鮮社会 / 非公式的社会領域 / 市場と物々交換 / 家庭内副業 / 移動と移住 / 脱北者 / 参与型研究 |
Research Abstract |
脱北者情報に基づく北朝鮮民衆の生活実態に関する資料として、面談と聞き取り、生活記録の民族誌的手記による大量の資料を収集し、その内容を検討と整理、補充調査と報告書作成に向けて作業中であり、社会主義と唯一指導体制下における民衆の生活戦略をめぐって、特に公式の情報には表れない非公式の社会領域と活動について、具体的で民族誌的な実態が明らかとなりつつある。 研究成果の公表として、公開セミナー「北朝鮮社会の人類学的研究-科研費プロジェクト紹介」(6月4日)、「北朝鮮民衆の生活実態研究」科研費プロジェクト中間報告(第1回、7月25日)、「同」(第2回、10月15日)のほか、公開シンポジウムとして、第1回「北朝鮮の新政権と指導態勢」(6月18日、梁成吉:韓国国家情報院、朴斗鎮:KII、伊藤亜人)、第2回「北朝鮮の住民生活と在日帰国者」(10月22日:安鍾秀:北韓大学院大学、朴斗鎮:KII、康仁徳:元統一部長官、伊藤亜人)、第3回「北朝鮮における市場経済と住民の商活動」(11月12日、孫恵民:脱北者、三村光弘(ERINA)、伊藤亜人)、第4回「北朝鮮住民の国際適応を巡る課題」(11月19日、康仁徳:前統一部長官、朴斗鎮:KII、伊藤亜人)、第5回「北朝鮮離脱住民の適応課題」(12月17日、李仁子:東北大学、権香淑:清泉女子大学、伊藤亜人)の5回の公開シンポジウムを開催した。 また、講演として「北朝鮮社会の実態と民衆の生活」(9月14日町田市LC)、公開講 演「東アジアと人道保障-北朝鮮民衆の生活実態」(11月24日、青山学院大学)、また、韓国統一部の国際調査事業に関する諮問会議における「北朝鮮離脱者の脱南」(9月25日ソウル、延世大学)などがある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
韓国側の研究者・諸機関および研究協力者との協力体制のもとに、本研究の方法論上の大きな特色である脱北者など当事者の主体的な参与による情報・資料の収集は予定通り順調に進んでおり、北朝鮮社会の諸分野・局面について膨大な資料が得られ、その整理と分析に着手している。 脱北者自身による北朝鮮の生活記録は、李純実をはじめとする主要10名だけでも、既に合計200篇を越す手記が寄せられており、テーマは農村(協同農場)と農業、地方都市における職場の組織生活、地域(労働者区)における党・行政、教育、医療、労働動員、家族と婚姻、婦人の家内副業と私的商活動、生活文化と人生儀礼・年中行事、そして、生活維持戦略としての食料や生活物資をめぐる横領・盗みなどの非合法的な行動が日常化している社会状況についても、具体的な記述によって実態が明らかとなりつつある。 社会離脱・追放・脱北の過程についても、手記と面談によって、具体的な体験記録として資料が蓄積されており、韓国におけるこれまでの調査研究を補完する内容となっている。 一方、日本国内および中国(中朝国境地区)における北朝鮮出身者についても、研究協力者によって現地情報がもたらされており、中でも中国の延辺地区における北朝鮮からの訪問者との交流を通した資料収集は、まったく新たな合法的な協力を踏まえて軌道に乗りつつある。 また、北朝鮮の地域社会(地方都市)に対する社会史的な研究は遅れ気味であったが、咸鏡北道咸興出身の脱北者の協力によってようやく軌道に乗りつつあり、今年度に大幅に前進すると見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
北朝鮮民衆の生活実態については、引き続き脱北者に対する面談インタビューと並行して、脱北者自身による生活記録資料の収集に努めるとともに、その整理と分析に当たり、資料集および報告書の作成を準備する。 民衆の生活記録として具体的には、農村(協同農場)における農作業・労働力・管理運営、家庭生活、私有農地(小土地)、都市労働者の職場における組織生活と総和(総括による党の指導・規制)、家庭における女性の副業・出稼ぎなどの生活戦略を中心に重点的な聞き取り調査を実施し、また、公式体制下における生活戦略について、食料・生活物資を入手するための非公式・非合法の行動・活動について資料の整理と重点的調査を行う。 中国の国境地帯における北朝鮮出身者については、研究協力者が実施している研修プログラムに現地参加して、北朝鮮社会の現状について最新の資料収集を実施する。 北朝鮮の地方都市の社会史的調査としては咸興について重点的な聞き取り調査を実施し、同地出身の脱北者のうちで特に優れたインフォーマントの協力が見込まれている。 また、本研究が実践的な課題として掲げている、北朝鮮社会の抱える課題と社会復興のために予測される「問題の同定」については、脱北者との座談形式のワークショップを実施して、生活実態を踏まえた脱北者自身の判断を集約して、北朝鮮社会の今後の推移について人類学的な観点による一定の予測を含めて報告書に提示することを目指す。
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