2012 Fiscal Year Annual Research Report
インドネシアの木造建造物保存に関する国際共同研究-日本型修理技術の適応と保存意義
Project/Area Number |
23254006
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Section | 海外学術 |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上北 恭史 筑波大学, 芸術系, 教授 (00232736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
友田 博通 昭和女子大学, 国際文化研究所, 教授 (00155582)
内海 佐和子 国際文化研究所, 国際文化研究所, 研究員 (10398711)
稲葉 信子 筑波大学, 芸術系, 教授 (20356273)
斎藤 英俊 京都女子大学, 家政学部, 教授 (30271589)
吉田 友彦 立命館大学, 政策科学部, 教授 (40283494)
小野 邦彦 サイバー大学, 世界遺産学部, 教授 (50350426)
花里 利一 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60134285)
佐藤 浩司 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 准教授 (60215788)
西山 徳明 北海道大学, 観光学高等研究センター, 教授 (60243979)
松井 敏也 筑波大学, 芸術系, 准教授 (60306074)
藤川 昌樹 筑波大学, システム情報系, 教授 (90228974)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | インドネシア / 伝統的集落 / 歴史的地区 / ニアス島 / バウォマタルオ村 / 保存 / ジョグジャカルタ / コタグデ |
Research Abstract |
本年度はインドネシアのニアス島の南部に残る伝統的集落バゥオマタルオ村の保存調査をガジャマダ大学と共同で行い、実測、測定、インタビューを中心に実施し、集落における伝統的家屋の残存状況、石造建造物のリスト作成、首長の家(オモ・セブア)の劣化状況の把握、修理技術の把握、伝統的家屋の温熱環境データの収集、居住家族成員の把握等を行った。そして集落保存のためのデータと保存への指針を示すレポートを作成した。これらの活動を通して、南ニアス県知事、文化観光局職員と議論を行い、集落保存のための制度設計と保存計画作成の検討を行うこととなった。さらに保存と観光活用のためのワークショップを住民に実施し、集落保存活動の普及を試みた。集落に残る多くの木造建造物は、木材価格の高騰と生活雇用変化による収入の減少から、十分に修理されているものは少なく、蟻害と腐朽の進行により良好な状態を保っているとはいえない。また文化遺産としての概念が行政にも住民にも普及しておらず、一部傷んだ材料もまるごと新材に交換されてしまったり、家屋全体が全く新しい材料で新築更新されてしまう事例も散見される。行政のよる文化遺産補助制度の未確立、文化遺産の考え方の未普及、伝統的コミュニティーの弱体化による継承意欲の喪失といった状況をみると、早急に集落保存の体制が整備される必要がある。 またジャワ島のジョグジャカルタ市の歴史的地区コタグデでワークショップを実施したが、ここではジャワ様式の伝統的家屋の空家が問題になっていることが指摘された。コタグデはジョグジャカルタ市の条例によって文化遺産となったが、保存地区の範囲も修理補助の制度も確立されていない。伝統的家屋の居住を嫌い、若年世代が流出することにより、地区の継承者が減少している問題がある。ここでは伝統的家屋の維持のために地区の活性化と若い世代の再帰が図られなければならないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、インドネシアの歴史地区や集落を構成する居住遺産としての木造建造物に対して、日本やベトナムの歴史地区保存の事例を参考にし、インドネシアの建築・文化財保存の専門家とともに、インドネシアの歴史保存地区および保存集落の事例を分析を通して、適切な保存計画の内容および木造建造物の修理方法について考察し、「日本型修理技術」の適応の可能性について検討することを目指している。その内容は、1)日本の木造建造物修理方法(日本型修理技術)の評価と認識、2)国際協力事例(古都ホイアン)における「日本型修理技術」適応の評価(ベトナム招聘)、3)インドネシア木造建造物の構造(耐震性能)・材料的特性の研究(ニアス島派遣)、4)インドネシア歴史保存地区・集落の修理技術、保存体制の研究(コタグデ地区、ニアス島派遣)、これらの成果に基づいて、5)インドネシアの木造建造物における「日本型修理技術」の可能性についての討議(共同集会)、を行う計画である。24年度は、科学研究費に加えて他の補助金、大学からの研究支援経費を本テーマの実施に加えることができ、バウォマタルオ村関係者を白川村に招聘し議論を交わすことができた。そしてバウォマタルオ村の保存調査を行い、保存計画作成のためのレポートを作成した。さらにコタグデ地区でリバイタリゼーションのためのワークショップを開催し、保存のための意見交流を行った。昨年度の研究活動と合わせて、事項1)2)を終え、3)4)を継続している。研究計画に従った進捗状況は順調に行われているといえる。しかしニアス島バウォマタルオ村の保存体制の構築について、ワークショップや会議を通じて村や行政は前向きに検討を始めているが、村民への教育普及や保存への合意は時間がかかるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度まで行なってきた調査対象地ニアス島バウォマタルオ村およびジョグジャカルタ市コタグデにおいて調査とワークショップを継続する。 バウォマタルオ村は保存計画の策定を試みており、保存対象の選定、修理方法の妥当性、保存条例等の法制度の整備について、関係部局と意見交流を行う。また保存していくための問題点を認識し、バウォマタルオ村の関係者が適切に保存していくための手法について議論を交わすことを試みる。 コタグデ地区はジョグジャカルタ市によって保存条例が作成され、保存地区としての運用が開始されている。これまでのワークショップによって、伝統的ジャワ様式の民家に空き家が増えていることが指摘されている。コタグデ地区を適切に保存するためには、保存制度の確立だけではなく、住民による保存運動の拡大、若年層の文化的生活様式の再認識を推進するなど、生活意識、保存意識に関わる住民活動の協力が必要である。市民活動が活発になりつつあるインドネシアで、歴史的地区の保存活動に住民がどのように関わっていくのかという先例になると思われる。 インドネシアの木造建造物および集落の保存活動は、木造建造物の保存技術の確立と住民の保存活動の定着が必要である。バウォマタルオ村とコタグデ地区はどちらも伝統的木造建造物からなる歴史的地区であるが、保存に係る問題は異なっている。それぞれの地区に共通する問題を整理し、インドネシアの歴史地区保存に必要な基本条件を考察すること、そしてそれぞれの地区独自に解決されなければならない問題を特定し、保存計画やマスタープランに反映していく方法を今後考察していく。
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Research Products
(4 results)