2012 Fiscal Year Annual Research Report
心機能制御における心肥大・心室形態調節の分子基盤と臓器機能連関のフィジオーム解析
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23300171
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮坂 武寛 姫路獨協大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60308195)
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 講師 (80341080)
氏原 嘉洋 川崎医科大学, 医学部, 助教 (80610021)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 心機能 / 心肥大 / 冠循環 / フィジオーム |
Research Abstract |
心臓の血液ポンプ機能は心筋の量と性質、そして心室形態によって決まる。その制御は自らを取り巻く環境からの情報を感知して、変化に適応する形で行われる。心筋量を増加させるには細胞を分裂させ数を増やすか、肥大させて個々の細部を大きくする選択肢がある。本年度は酸素環境に対する応答として、出生前後の劇的な酸素分圧上昇が心筋細胞の分裂・肥大にどのように影響しているかを検討した。心筋細胞の分裂に関する研究は分裂マーカーと呼ばれるKi67、BrdU、PH3などで評価する報告が多いが、実際に細胞の分裂を観察しているものは殆ど無いため、我々は新生児マウスの心臓を酵素処理して細胞を分離し、心筋細胞特異的に発現するα-アクチニンによってサイトフローメータによる細胞集団分離を行って99%純度の初代培養心筋細胞の実験系を確立した。これにより、心筋細胞が分裂する様子をタイムラプスで観察することが出来た。この培養実験系を用いて、胎児マウスの心筋細胞を大気に触れないように分離し、3%酸素下で培養した。その後、そのまま3%酸素で培養を続けた群と、20%酸素環境下での培養へと移行させた群を比較すると、3%酸素培養群の方が細胞数が20%程度多く、酸素分圧の上昇が心筋細胞の分裂を停止させていることが示唆された。また、この2群に関して、PCRアレイによる遺伝子発現解析を行ったところ、細胞周期制御や心筋肥大を司る遺伝子の発現変化が認められ、最も発現が増加していたのはDNAダメージ修復に関係する遺伝子であった。現在は今後ターゲットとする幾つかの遺伝子が個体レベルでも同様に制御を受けているか検討している。個体レベルでの心機能制御機構として、恒常的に心筋細胞を制御し続ける甲状腺ホルモンを取り上げ、Ca輸送体発現量やCaハンドリングの変化を評価し、機能亢進においてはT管の構造が乱れが心機能低下の一因であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心臓の機能発現には、長期的には心筋細胞の収縮・弛緩能以外にも細胞の形態変化が重要であり、最終的には心臓全体の形態こそが機能を決定するため、遺伝子、タンパク、細胞、臓器、個体レベルでの評価が必要である。これまでに進めてきた研究で、マウス心負荷モデル(大動脈縮窄、大動脈弁逆流)に関して、昨年度は心肥大関連分子の検討を行い、細胞レベルではINDO-1、 FURA-2などのCa指示薬を用いた筋小胞体Caストアなど心筋細胞のCaハンドリングについて検討して来た。臓器レベルではコンダクタンスカテーテルによる左心室最大弾性率や左心室圧下降曲線の時定数解析による弛緩評価などが可能になった。個体レベルでは超音波フロープローブを購入し、全身血管抵抗の評価も可能になり、循環血漿量の変化に対する応答など心血管系の予備力評価を行っている。これらの評価技術と以前から蓄積して来た冠循環観察技術を組み合わせてマルチスケールな研究体勢が整ったと考えている。研究の趨勢は遺伝子・タンパクレベルでターゲットを決め、各臓器でノックアウト或はトランスジェニックマウスを作成して表現系解析を行うことが一般的であるが、遺伝子・タンパク実験が汎用性のあるキットで遂行可能であるのに対してマクロ実験系は概念の理解、実験技術の習得に時間が掛かるため多くの研究施設で並行して行うには無理がある。このような点を考え、マルチスケール心機能評価を担当して他施設との共同研究も行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
マウス心負荷モデルを用いた実験は実験数を確保する為に継続する。酸素環境と細胞分裂・肥大に関する実験は、培養細胞系による遺伝子発現の変化の結果が、臓器から摘出し細胞を即時分離した検体でも同様であることを確認してターゲットとする分子を絞り込む。現時点ではDNAダメージ修復に関係するp53の標的タンパクや、CDKが明らかになっていないオーファンサイクリンなど、心臓での働きが報告されていないものが多くみられる。培養細胞系でsiRNAなどによるノックダウンによる細胞周期制御や肥大応答に作用が大きそうな遺伝子を選択して、長期的は薬剤誘導性、臓器特異的ノックアウトやトランスジェニックマウスによる検討を行いたいと考えている。また、血行動態的は違いをもつ右心室と左心室による遺伝子発現の違いや、分裂能を維持している胎児期・新生時期マウス心臓での遺伝子発現の経時的変化を観察する。また、新生児期の全身の血液循環システムとの関連についても調べるために、出生後数週で起こるヘモグロビン変換についても検討する。ヘモグロビンは胎児型と成人型に大別され、胎児型の方が酸素に対する結合力が強い。これは教科書的には胎盤での酸素獲得に有利な為とされているが、実際には胎児内で最も酸素分圧が高い臍帯静脈でも25mmHg程度であることを考えると、活動性が低く細胞分裂が盛んな胎児においては酸素供給量を最低必要量にして、DNAダメージを防ぐことが目的である可能性が高い。従って心筋の細胞分裂停止は、出生より始まる肺循環やヘモグロビン変換などのマクロ環境変化がトリガーとなって、遺伝子レベルでの変化を引き起こしているという概念を提唱したい。
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