2012 Fiscal Year Annual Research Report
ファシズムと宗教文化に関する地域・時代比較的総合研究
Project/Area Number |
23320015
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
深澤 英隆 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (30208912)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 正崇 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (10126279)
山中 弘 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 教授 (40201842)
平藤 喜久子 國學院大學, 研究開発推進機構, 准教授 (50384003)
新免 光比呂 国立民族学博物館, 民族文化研究部, 准教授 (60260056)
松村 一男 和光大学, 表現学部, 教授 (70183952)
久保田 浩 立教大学, 文学部, 教授 (60434205)
江川 純一 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (40636693)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 宗教 / 宗教学 / ファシズム / ナショナリズム / 神話 / 宗教と政治 / 神話学 / 宗教文化 |
Research Abstract |
本研究は、政治現象としての広義のファシズムと宗教文化との関連を、過去と現在、および広範な地域におよぶ事例にもとづきつつ解明することを目的として計画された。平成24年度は、まず準備会議において本研究の研究課題をあらためて討議するとともに、平成23年度の研究成果を確認しつつ、各自の分担領域についても再確認を行った。さらに、各自がそれぞれの研究分担に従い、研究を遂行した。深澤は、「政治的宗教」をめぐる理論的研究とともに、ドイツにおける自然概念の変遷とファシズム期ドイツ宗教哲学との関連を探った。鈴木は、近代仏教の観点から、宇野圓空に関して資料を収集し、その修験道研究から東南アジア研究に至る過程を検討して、日本型ファシズムへの協力関係を考察した。松村は、ファシズム期の日本神話研究とゲルマン神話研究の関連性について考察した。山中は、D・H・ロレンスと交流があり、当時、ファシストと見なされていたロルフ・ガーディナーの思想と行動を検討した。新免は、ルーマニアにおけるファシズム運動と宗教(ルーマニア正教会)との関係について、日本における宗教運動と世俗権力との関係についての比較を視野におきながら研究を行った。平藤は、日本ファシズム期の神話学の検討を行うとともに、ファシズム期の日本で語られた日本人起源論についての調査を開始した。久保田は、民族主義宗教運動とスピリチュアリズム・オカルティズムとの連関を示唆する知識人並びにその運動の具体的実相を、史料をもとに再構成することを目指した。江川は、ファシズムを「政治宗教」として捉えることの妥当性について、ドゥーチェ崇拝やドーポラヴォーロといったファシズム文化の事例をもとに検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画はもともと、1.ファシズム現象の宗教的特質、2.ファシズム現象の宗教的背景(宗教的プレ・ファシズムの問題)、3.ファシズム期における宗教および宗教研究、4.ファシズム的表象世界と宗教文化との関連、などの諸点に着目しつつ個別研究を深め、そののち時代および地域の複合的比較を通じて、ファシズムと宗教文化という複雑な現象の一端を解明することを目的として出発した。各研究分担者が分担している個別研究については、ほぼ順調な進展が見られるということができる。とりわけ上述の諸課題のうち、1については深澤、久保田、新免が、2については深澤が、3については鈴木、江川、松村が、4については平藤が、それぞれ中心的に取り組み、進展をみている。ただ研究の性質上、宗教史および政治史に関わる一次資料の掘り起こしからはじめる必要があり、この点では当初の予想を上回る困難があることも事実である。これに加えて、各時代のファシズム/ファシズム的なるものと宗教文化との関係が予想を超えて複雑な様相をもっていることも事実であり、現在のところ各分担領域で、引き続き資料収集と整理・分析を継続しているところである。こうした一方で、ファシズム的なるものと宗教文化との関係に関わる本研究プロジェクトの問題設定が実り多い結果をもたらしうることがあらためて確認されたのは、平成23、24年度の大きな研究成果であった。なお平成25年度の課題として残されているのが、比較に関わる諸作業である。すでに個々の研究分担者が、ファシズムと宗教文化との関係状況について、可能な範囲で時代・地域比較を遂行しているが、今後はこれをさらに進めてゆく。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度にあたる平成25年度は、まずこれまでの各分担者の研究課題の探求に、一応のまとまりをつける必要がある。深澤は、個別研究としては引き続きドイツにおける民族主義宗教運動とナチズムとの確執を中心に据えるとともに、ファシズムと宗教文化との関係を理論的に考察するための基礎論的議論の構築に努める。鈴木は、引き続き宇野圓空の宗教思想および戦前期の大陸での調査活動とファシズム政権との関係を探る。山中は、大戦期間のイギリスにおいて、文明の問題について最も積極的に発言してきたA・トインビーの仕事を検討し、イギリスにおける当時のファシズム理解を検討する。松村は、ファシズム期フランスのゲルマン神話研究の諸相と、そのイデオロギー的効果の考察によって、ファシズムと神話学との本質的結びつきの有無について考察する。新免は、ルーマニアにおけるファシズム運動と宗教文化との関係について、1989年の民主革命から20年余りを経て蓄積されたルーマニアのファシズム運動に関する文献の調査を行う。久保田は宗教的かつ民族主義的想像力の生産と受容の過程、ことにそうした知識人の想像力がいかなる社会層にどのような形で受容されていったのかを、H・ヴィルトやR・A・ホフマンの事例にもとづき検討を加える。江川は、ファシズム期のイタリア宗教史学と宗教文化についての研究を進めるほか、「政治宗教」概念の有効性についても、エミリオ・ジェンティーレの論考を中心に検討する。また以上の個別研究をふまえて、あらためて諸地域・諸時代におけるファシズムと宗教文化との関わりを複合的な枠組みのもとに比較対照し、一般理論構築のための一定程度の端緒を見いだすこととしたい。
|
Research Products
(11 results)