2012 Fiscal Year Annual Research Report
中国語文法史の歴史的展開――構文と文法範疇の相関的変遷の解明
Project/Area Number |
23320082
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大西 克也 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (10272452)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 英樹 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20153207)
木津 祐子 京都大学, 文学研究科, 教授 (90242990)
松江 崇 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (90344530)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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Keywords | 言語学 / 中国語 / 歴史言語学 / 文法 / 構文 |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度に引き続き「存在文」と指示範疇を中心として研究の深化を図るとともに、新たな展開の糸口を得るため、代表者・分担者は各自の担当する時代における文法範疇と構文との関係を広く探求した。 大西は、指示範疇形成プロセスの解明の基礎固めを目的として、上古中国語の指示範疇を詳細に分析し、不定行為者を導入するとされる動詞「有」の使用は、現代語と異なり、主として行為者の際立ちの表出に動機づけられていたことなどを明らかにすることによって、上古において語用論的性質を色濃く佩びていた指示範疇が、存在・数量構文の形成とも関連しつつ文法的手段へと変容したという見通しを得た。 松江は、中古漢語の『世説新語』における二項「有」字文を検討対象として、主語と目的語の意味的なタイプを体系的に記述した上で、そのうち「リアルな時空間」を主語に「リアルな事物」を目的語にとる時空間存在文について分析を加えた。そして空間存在文と時間存在文とでは成熟の度合いには差異があり、後者は相対的に成熟度が低いことを指摘した。 木津は、琉球で編纂された中国語教本の成立背景について研究を進め、特に『廣應官話』(梁允治撰)が『白姓』系教本とが文法上共通の特徴を有し、系譜上、密接な関係を有することを明らかにした。また存在文形式の歴史的展開を解明するため、今年度は『山海経』を取り上げ、同書が巻毎に全く異なる存在文形式によって叙述されることについて考察した。 木村は、構文と文法範疇の相関的関係の究明を目指し、現代中国語のダイクシス、アスペクトおよびヴォイスに関わる多数の文法現象を取り上げ、従来の研究が見落としてきたか、あるいは的確に捉え切れなかった諸々の「虚」的意味を探り出し、それらと形態的もしくは構造的なかたちの対応関係を明らかにし、加えて、その対応のあり方を自然言語としての普遍性と個別性という観点から特徴づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、中国語の構文の形及び意味の変容を、各構文を構成する名詞項や動詞に関わる文法範疇の成立や展開との相関性から観察・分析することにより、歴史言語学一般への貢献をも視野に入れつつ、中国語文法史をより立体的に解明することを目的とするものである。具体的には、現代中国語文法において有効に機能しているレファランシャリティ、ダイクシス、ヴォイス、アスペクト等様々な文法範疇について、範疇自身が歴史上どのように文法化され、各種構文との関わりにおいてどのような展開を遂げてきたのかを、明らかにすることを目的としている。 これまでの研究期間において、①現代中国語の「存在文」が、知覚的な存在事象を述べるタイプと概念的な存在事象を述べるタイプに二分されることを明らかにし、歴史的には知覚的なタイプが概念的なタイプからの拡張によって成立したことを論証し得たこと、②中古、近代の資料の精査により、「存在文」の形成プロセスをより明確にし得たこと、③定・不定などレファランシャリティに関する範疇の歴史的形成解明の見通しが得られたこと、④現代中国語における諸文法現象を横断的に検討することにより、自然言語としての文法的なあり方が、より明確に特徴づけられたため、さらにそれを歴史的に遡って探求する道が開けたこと等、多くの成果が挙げられた。以上により、本研究は順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り研究経過は順調に進展しているため、概ね当初の計画通りに研究を推進する予定である。昨年度に引き続き、レファランシャリティ範疇の形成に関する研究を進めるとともに、各種文法構文と範疇を取り上げ、その相関的発展の様相を各時代毎に詳細に記述するための一次資料採取を行なう。二重目的語構文、使役構文、非対格構文、数量構文等各種構文、および限界的/非限界的等各種文法範疇相互間の接点から、中国語文法史の変遷を幅広く取り上げる。これらに関する研究者の調査データや分析成果を持ち寄って年数回の研究会を開き、討議を行う。その中から共通課題を設定し、議論を深めて行く。なお、昨年度までの研究結果を踏まえて、レファランシャリティに関する研究の総括を行い、日本中国語学会全国大会におけるワークショップで発表を行う予定である。 木村は理論言語学・現代語研究の立場から理論面の強化を図るとともに、歴史的研究への助言を行う。大西は上古中国語、松江は中古中国語、木津は近代中国語のデータを収集し、それぞれの時代における範疇化プロセスと構文との関係を描写し、相互に突き合わせて検討することにより、歴史的な解明を図る。また連携研究者、研究協力者から現代中国方言におけるレファランスのデータの提供を受けて、広がりと奥行きのもつ研究成果を目指す。 記述と考察の精密化を図るため、また、研究成果を積極的に海外に発信するため、各研究者は海外の研究機関への出張や国際会議へ参加を積極的に行ない、海外の研究者との学術交流を図る。 以上のような研究を通じて、構文と範疇の相関的な形成プロセスに関する新たな知見を積み重ね、本研究目的の達成を目指したい。
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Research Products
(10 results)