Research Abstract |
本研究は外国語教育の読解研究に位置し,母語(以後L1)の読解能力と第二言語(以後L2)読解能力の構造的関係を,堅牢な実験心理学の手法を用いて明らかにすることを目的とする。第二言語習得研究の分野ではL1読解能力はL2読解能力に転移するという考え方が支持されているが,その具体的な内容は明らかになっていない。 本研究では,日本語を母語とする英語習熟途上の工業高等専門学校生を対象に,3年間で3回に渡る縦断的実験を行い,英語がどの程度習熟した時,日本語の読解能力の何が,どのように,英語の読解能力に影響するのかということを明らかにするが,1年目にあたる平成23年度は研究者間で入念な実験計画を練ると同時に,研究代表者は平成23年9月より米国のカーネギーメロン大学において,読解研究の専門家たちと実験方法について検討した。具体的には実験のための刺激テキストの作成と選定,作動記憶容量を測定するためのリーディングスパンテスト作成の検討である。さらに,小山工業高等専門学校教授と研究打ち合わせを行い,高校1年生及び2年生の国語と英語の総合テストから,母語の読解能力と第二言語の推論能力との関係についての分析を行った。また,工学部の学生を被験者に予備実験を行った。その結果,母語の読解下位能力が第二言語の推論能力に影響を与えることは示唆されたが,下位能力のどの部分がどのぐらいの影響力を持つかというところまでは明らかになっていない。また,本研究ではSEMを使って分析するが,被験者数が現在のところ,やや不足していること,リーディングスパンテストを教育現場の高専で行うことはかなり困難であること等がわかった。これらの点について,平成24年度に解決方法を見出し,高専生の英語習熟度を変数に加えた実験を行う予定である。本研究から,母語の読解と第二言語読解の関係が明らかになれば,英語のみならず外国語教育全般に対し有益な示唆となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は本研究における実験計画を入念かつ精密に行うことであった。研究代表者及び分担者は研究打ち合わせ会議を行い,被験者の検討,作動記憶容量の実験方法の改良,刺激テキストの検討を行った。また,研究代表者は平成23年9月より,米国カーネギーメロン大学を訪問し,同大学の読解研究者と本研究に対する会議を行った。さらに長岡技術科学大学の学生を被験者に予備実験を行い,刺激テキストの妥当性を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究成果を踏まえ,英語習熟度を変数にするためには被験者は高校生であることが望ましいという結論に達したので,小山工業高等専門学校教授を研究分担者として迎えることにした。しかし作動記憶容量の実験では,1名1部屋が必要で,英語と日本語の両方で行うためには1名30分必要である。また,本研究ではSEMを使って分析をすることを計画しているが,その場合,被験者は100名ほどいるのが望ましい。このような状況を考えると,高専という教育現場では実験が難しく,質問紙の方法に切り替えることを考えている。そして,作動記憶容量と工学の知識を変数とする実験は,長岡技術科学大学の学生を被験者にするような変更を考えている。平成24年度はこれらの学生・生徒を被験者に本実験を行う。
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