2012 Fiscal Year Annual Research Report
西日本における中世石造物の成立と地域的展開-石材と形態・様式に着目して-
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23320138
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
市村 高男 高知大学, 教育研究部総合科学系, 教授 (80294817)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
先山 徹 兵庫県立大学, 付置研究所, 准教授 (20244692)
佐藤 亜聖 (財)元興寺文化財研究所, その他部局等, 研究員 (40321947)
桃崎 祐輔 福岡大学, 人文学部, 教授 (60323218)
高津 孝 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (70206770)
福島 金治 愛知学院大学, 文学部, 教授 (70319177)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 中世の石造物 / 石材識別 / 形態・様式 / 地域的展開 / 日中・日韓交流 |
Research Abstract |
本年度は、①徳島・大分・長崎県の結晶片岩製石造物の地域比較のための調査、②鹿児島県の凝灰岩製石造物の個性と多様性を考えるための調査、③海外調査(韓国の多層石造塔の調査と中国の石塔と石材の調査)を実施した。 ①では徳島県域で見られる結晶片岩(緑色片願)製の阿波型板碑に着目し、同じ石材で造られる関東の武蔵型板碑との比較検討を行い、同じ結晶片岩でも石材に微妙な違いがあり、形態や加工技術に差異をもたらしたことを解明した。愛媛・大分・長崎県でも結晶片岩が採取されるが、愛媛・大分は石造物に利用しないのに対し、長崎では板碑を造らず、それ以外の石塔を造ることなど、地域による個性を確認した。 ②では鹿児島県の主要な石造物群を調査し、各地域ごとに地元で採れる凝灰岩を使用して個性的な石造物を造っていること、そのためかなり多様性に富んだ石造物を造り出したこと、それでも肉厚で垂木付きの意匠など、共通性がみられることなどを確認した。また、昨年度に続いて九州西岸各地で確認される薩摩塔・碇石など中国由来の石造物の調査を実施し、当初予定の9割まで完了した。 ③の韓国調査は、滋賀県や北陸方面でみられる半島風の多層石塔の比較検討のため、昨年度に続いて韓国中南部の多層石造塔の調査を進め、主要なものの大半の調査を終了し、その類型把握が可能な状態になった。また、調査に際し、韓国釜山市の釜慶大学校の研究者と日韓の石造物研究の現状に関する意見交換会を行った。また、中国調査は浙江省へ出張し、薩摩塔の石材である梅園石などの採石場跡および現在の採石場を調査し、採石場による石材の微妙な違いがあることを確認し、東大寺石造獅子像は、良質の梅園石が確認される前の石材であることなどを確認した。また、薩摩塔の石材に較べて、碇石はやや粗悪な石材を利用する傾向があることも分かった。中国浙江省の主要な石造物の調査も合わせて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
奈良・京都・滋賀など近畿圏の優品を中心とする調査では、加工技術や意匠がどのようにして各地へ伝播していったのか、その様相をかなり明らかにすることができた。また、軟質の凝灰岩から硬質の花崗岩へという石材の変化も明らかになった。 西日本各地の石造物調査は、長崎県の平戸の調査を通じて、花崗岩・凝灰岩・安山岩・結晶片岩など多様な石材の石造物に加え、中国産の薩摩塔や碇石なども点在し、この島が占める交通・交易上の位置が明確に示されていることを確認した。また、徳島県の阿波型板碑や長崎県の結晶片岩製宝篋印塔・五輪塔の調査を通じて、同じ石材でも地域による造塔の意識・認識に大きな違いがあることが判明、鹿児島県の多様な凝灰岩製石造物の調査によって、地域の個性とそれに対応した石造物の個性も確認できた。 海外調査も、昨年度に続くハードな韓国調査によって、石造多層塔の主要なものの多くを調査し、これが日本の寺院に立つ木製の五重塔・七重塔などに相当するものであり、五輪塔や宝篋印塔などの石塔類とは基本的に性格を異にするものであることが判明したが、意匠や形態の面で間接的に日本の石塔に影響を与えた形跡があることが見え始めた。そして、中国の調査では、一口に梅園石といってもかなり多様であり、12世紀の初発期の梅園石と13世紀のそれとでは違いがあることも明らかになった。 以上のように、当初計画した調査・研究はほぼ予定通りに進んでいるが、調査の進展とともに、予定していなかった北陸地方や和歌山県熊野地域などの石造物調査が不可欠であることが分かってきた。また、本年度調査予定の愛媛県今治市一帯の花崗岩石造物は、対岸の広島県尾道市一帯の花崗岩石造物と関係が深く、両地域を一体的に調査しなければ、解明できないことがあるということも分かった。当初の目的達成のため、新たに生じた課題をどう処理していくかが問題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、メンバー全体による大分県と愛媛県での調査を実施する。大分県の石造文化は、鹿児島県と並んで九州を代表するものであり、畿内の石造物の加工技術や意匠との比較検討を通じて、その特徴を明らかにする。しかし、一口に大分県といっても、かなりの地域性があるので、研究蓄積の多い国東半島と比較する視点を持ちながら、県南部の臼杵市方面での調査・検討を行う予定である。 愛媛県の調査は、花崗岩製石造物と「伊予の白石」と呼ばれる地元凝灰岩製の石造物が中心になる。前者は今治市を中心に分布し、その加工技術から畿内系石工の関与があったことを伺わせるが、その一方では、この地域独特な意匠が見られるので、畿内石造文化と地域の石造文化とが融合する過程を明らかにすることができるものと思われる。一方の地元凝灰岩製の石造物は、花崗岩製のそれに先行して登場し、分布範囲も広いことが知られているので、愛媛県独自の石造文化の特徴を体現するものと捉えられる。二種の石造物の比較・検討によって、畿内の石造文化と伊予のそれとの競合と共存、融合の在り方を明らかにする。 また、愛媛県の花崗岩石造物は、瀬戸内海を挟んで向かい合う広島県尾道市を中心とした石造文化との共通性が見られるので、島嶼部から尾道市にかけての石造物についても可能な限り調査・検討を進め、その共通性と差異を明らかにしたい。 この他、和歌山県熊野地域の石造物研究が進み、畿内とは異なる独自性を有していることが分かってきたので、予定外ではあるが調査を実施したい。また、山陰・北陸方面で、半島風石塔と類似の石造物があることが分かってきたので、可能な限り調査を実施し、10月に招聘予定の韓国の研究者との研究会で、その成果について意見交換を行う。なお、梅園石製以外の石造物が博多などで確認されているので、その石材が何であり、どこで産出したかの究明のため、中国への渡航も予定している。
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Research Products
(8 results)