2014 Fiscal Year Annual Research Report
功利主義と公共性:「経済」は人々に「幸福」をもたらすか?
Project/Area Number |
23330067
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
有江 大介 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (40175980)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 隆穂 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00126830)
川俣 雅弘 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (80214691)
山岡 龍一 放送大学, 教養学部, 教授 (80306406)
中井 大介 近畿大学, 経済学部, 准教授 (70454634)
板井 広明 東京交通短期大学, 運輸科, 准教授 (60405032)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 功利主義 / 公共性 / 幸福 / 公共哲学 / 厚生経済学 / ベーシック・インカム / 差別 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、5年計画の科学研究費補助金予定総額の約38%を配分した。これは、同年8月20日-22日に第13回国際功利主義学会横浜大会(ISUS XIII)を、横浜国立大学を主会場にして開催したためである。この大会の充実化のために、ISUS本部にあたるユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のベンサム・プロジェクトよりPhilip Schofield教授、Michael Quinn博士の両名を本科学研究費によって招聘し報告の提供を受けた。また、大会終了後、上記招聘研究者に加え、同プロジェクトのTim Causer 博士、 Kris Grint 博士によって、研究目的に関連するワークショップを東京大学経済学部(8月25日)、一橋大学社会科学古典資料センター(8月26日)、中央大学経済学部(8月25日)などで分散開催した。また、名古屋大学において(12月20日)、他補助金との共催にて水田洋氏(日本学士院)、高哲男氏(九州産業大学)を報告者として「東大アダム・スミス文庫と Adam Smith Catalogue を考える:報告と水田洋氏への聞き取り」と題する研究集会を開催した。 また、ISUSの報告者であった本科学研究費メンバーによって、最終年度(平成27年)に大会報告を原稿化するための予備作業として、研究集会「経済学と功利主義」を2015年3月7日(土)に横浜国立大学みなとみらいキャンパスにて開催した。報告者は中井大介(近畿大学)、山崎聡(高知大学)および有江大介(横浜国立大学)であった。さらに、研究代表者・有江が2015年3月17日より26日の旅程でUCLベンサム・プロジェクトに資料調査等に赴き、併せてISUS横浜大会に関する総括的討議、フランス・リルでの第14回ISUS大会の情報収集、および、2回のBentham Seminar(3月18日、25日)に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研費の研究課題「功利主義と公共性:「経済」は人々に「幸福」をもたらすか」は、経済理論・経済思想から政治哲学、倫理学、社会思想、そして所得分配を中心とした現代の具体的な諸問題まで幅広い学際研究である。 より具体的には、功利主義は社会における公共性の構成要件である社会的正義や公平さや福祉をもたらすことができないと、J.ロールズやA.センらによって徹底的に批判された点につき、総合的に再検討しようというものである。それを、①功利主義の経済思想・理論・政策の歴史、②貧困の解消や所得の再配分のための経済分析と実行可能な制作の方法、③これらに通底する政治思想・哲学、の3つを視点と領域から本科研費による共同研究によって行う計画で出発した。 これまで、上記3領域での検討は研究代表者、各分担者の分業的検討作業によってバランスよく順調に行われてきているという点で、おおむね順調と評価できる。それは第一に、目に見える研究活動として、研究分担者各自の関連学会での研究報告は前提に、特に平成26年度については、厚生経済学と功利主義との関連を探求するなど英国社会科学の展開に重点があったとしても、上記<研究実績の概要>に示した第13回国際功利主義学会での日本からの発信としての研究発表によく現れている。第二に、具体的な特色としては、研究分担者や関連する研究者の間の討論において、功利主義批判に特化したり逆に功利主義一辺倒になることがなく、双方の立場からの建設的な議論を行う事ができていることをおおむね順調に推移しているという評価の理由に挙げたい。ここには、今後のこの研究が狭い価値判断にとらわれることなく、柔軟で開かれた方向を目指していることが示されている次第である。第三に、上記国際学会と国際セミナーの開催は、本研究課題の獲得目標の一つであるわが国からの研究発信の面で大きく貢献したものといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画はおおむね順調に推移していると言えるが、全体をどのように総括し成果発表をするのかという点ばかりでなく、英国のベンサム・プロジェクトとの連携を強化していくことは前提にしつつ、これまでの研究活動の過程を通じて日本での研究実績を中国や韓国の関連分野の研究者に提示し、日本がアジアにおける研究の中軸的位置をどのように確保し続けるという点が、今後の新たな課題として浮かび上がってきたといえる。 以上を念頭に置いて、最終年度における研究の集約過程では、現在の研究分担者以外の内外の研究者の参画を積極的に求めそこで獲得した知見も成果発表に繋げていく所存である。以上を実現していくための具体的方策としては、昨年度(H.26)に開催された上記の第13回国際功利主義学会横浜大会での報告(内外それぞれ約50本)の中から、本研究課題に適切に対応している報告を行った参加者に対して成果刊行への協力を求めることを試みる。すなわち、研究分担者による刊行準備のための研究集会に、招聘も含めた参加を促すとともに、それを研究内容全体の充実化と学際化だけでなく、今後の研究交流の国際的発展、特にアジア地域研究者との共同研究交流の契機としたいという波及的な目標も持っている。 以上の全体を通じて、人々の幸福を目指す一般的価値理念として、あるいは経済的、政治的な政策判断の基準としての功利主義は決して簡単には棄却され得るものではないことを、本研究課題の特色でもある幅広い研究領域からの1つのまとまった成果として様々な形態で発表する。とりわけ、可能ならば日本学術振興会による研究成果公開助成などを利用して、そうした成果を出版物として刊行する計画を持っている。
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